現に千早の住む町に刑期を終えた連続暴行魔〈入壱(いりいち)要〉が越してきた時、地元ラジオ局で報道番組に携わる夫〈紀文〉ですら、町の人と〈予防措置〉を講じた。
「ただそれも〈おれは野蛮な人間かな〉と紀文自身が問うように、理解不能な〈鬼畜〉から町を守るためには至極当たり前の行動なんです」
16年前、入壱は3人もの女子高生を両親の目の前で凌辱する。1人目は足の指を潰され、2人目は手の指を切断。3人目は目と鼓膜を潰された上に足首を切られ、この時は出血に驚いた入壱自身が救急車を呼んでいた。
彼は逮捕後、〈女の子が死んでしまうと思った〉と供述し、殺意はなかったらしいが、そんな凶悪犯が町内に住む彼の伯父宅に転居したとあって、ゲンジロウの事件でも入壱を疑う声がある。そんな中、千早は秋成の告白を聞くのである。
〈ぼくは、人を殺す快感を知っているんです。その上で、それが自分の生きる途だと確信している〉と彼は言い、そのくせサッカー部の花形で中等部の弟〈冬弥〉には迷惑をかけたくないと事態を冷静に分析してもいた。それでも突き上げる衝動に、彼は病名を付けてほしいらしいが、千早はどんな病名も妥当とは思えないのだ。
そもそも金や復讐を目的とした〈社会的殺人〉や、性的欲求と結びついた快楽殺人などの〈私的殺人〉と違って、秋成は歌手が歌を歌わずにいられないように人を殺したいのだと言う。その衝動を仮に〈純殺人〉と名付けたとして、そんな衝動が存在しうるだろうか―。
一方、入壱を巡っては、紀文の番組に出演した犯罪被害者の会代表〈白石〉が入壱の住所を暴露する放送事故が起こる。実は白石は入壱事件の被害者の伯父でもあった。そして千早は〈殺すべき人間を殺したい〉と言っていた秋成が番組を聞き、〈それを見つけた〉ことを知る。