移民や就労目的で、世界各国に中華ネットワークが拡大しているのは多くの人が知るところだ。ところが昨今、津動く国内への外国人の流入が社会問題を引き起こしている。中国広東省・広州市の各地に増殖している「アフリカ村」のひとつに、ノンフィクション作家の安田峰俊氏が飛んだ。
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場末の路地の横幅は1メートルにも満たなかった。ヒビ割れた路面に散らばる生ゴミの腐臭。すすけた壁の安アパートの一階で、パクリ玩具や怪しげな食品を売る雑貨店。「余所者」の私の闖入を、住民がいぶかしげな目でじろりと眺める。
ここは広東省広州市の三元里だ。一般の中国人すら滅多に足を踏み入れない城中村(チェンジョンツン、中国版のスラム)地帯である。私の目の前を、そんな場所にはどう見ても不似合いなアフリカ系の男が早足で歩いている。迷路さながらの路地だが、ずいぶん慣れた足取りだ。私は彼を見失わぬよう、薄暗いスラムの小径を必死でたどり続けた──。
広州市では近年、アフリカ系外国人の増加による住民トラブルが社会問題化している。そこで現地に飛んだ私は、市内で見かけたアフリカ人の後をつけ、彼らのコミュニティがどこにあるのか突き止めようと考えたのだった。
数キロにわたり男を追うと、やがて中国らしからぬ英語の看板を出すアフリカ人向け食堂が何軒もある通りに出た。瑶台西路という場所だ。路上では十数人のアフリカ人が昼間から青島(チンタオ)ビールを飲んで騒ぎ、非日常的な光景が広がる。さらに男の尾行を続けると、彼の姿はある安ホテルに吸い込まれていった。
ロビーをのぞき込む。巨大な荷物を抱えた大量のアフリカ人がたむろしていた。私の観察中にも、続々と黒い肌の男女が入ってくる。近隣の複数の安宿もここと同様の状況らしく、おそらく1キロ四方ほどの地域だけでも100人近くが滞在していると見られた。