妻と姑が良好な関係を築けないのは、どこにでもある話だ。突然、妻が「死後離婚」をするための書類として話題の「婚姻関係終了届」を提出したいといった場合、どうすればよいか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
妻が「あなたの親族の墓には入りたくないので、婚姻関係終了届を出したい」と宣言。その届けを出せば一緒の墓に入らなくてもよいらしく、離婚はしないから届けだけは出させてほしいと譲りません。確かに妻と私の母との関係は最悪ですが、そもそも婚姻関係終了届とはどういうものなのでしょうか。
【回答】
この「婚姻関係終了届」とは、正確には「姻族関係終了届」のことです。これは民法第728条2項で「夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする」と規定していることによります。要は夫婦の一方が死亡した後の対応を定めたものです。
ここでいう「前項」とは第1項「姻族関係は、離婚によって終了する」との規定をさしています。つまり、離婚と同様に姻族関係を終了させるということです。
そして姻族とは、あなたから見て奥さん側の血族、さらにあなたの血族の配偶者をいいます。この関係を断つことができるのは生存配偶者だけで、姻族側からはできません。姻族関係終了の制度は戦後の民法改正の際に、従来の家に拘束されていた妻の立場を夫と同等にしたものです。
姻族関係終了は、役所に届け出て行ないますが、死亡配偶者家のお墓・仏壇などの祭祀財産を承継していると、姻族関係終了後の承継者について死亡配偶者側の親族と協議して決めなくてはなりません。協議できなければ、家庭裁判所に決めてもらいます。
もし、貴方が生前に奥さん以外の人を祭祀承継者に指定しておけば、貴方の死後、奥さんはお墓の面倒を見る必要もなく、他に墓地を設けることもこだわりなくでき、姻族関係終了届を出すまでもありません。
他に扶養問題があります。3親等内の姻族は親族となり、同居していれば扶け合う義務があり、同居していなくても3親等内に扶養を必要とする人がいて、面倒を見ることができる親子や兄弟姉妹がいないと、家庭裁判所の命令で扶養義務を負わされる可能性があります。死亡配偶者の老親に生存配偶者以外身寄りがないときなどです。しかし、姻族関係終了届で、その恐れはなくなります。
【弁護士プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2017年3月24・31日号