高齢ドライバーによる“暴走”が深刻な社会問題になる中、3月12日、改正道路交通法が施行され、75歳以上の運転免許更新の条件が厳しくなった。
これまでも75歳以上のドライバーは3年に1度の免許更新時に、重大な死亡事故などを引き起こす可能性が高い「認知症」の有無を確かめる検査を受けなければならなかった。しかし、もっとも要注意な〈認知症の恐れがある〉と第1分類の判定をされたドライバーでも、その後、交通違反や事故を起こさなければ医師の診断を受ける必要はなかった。
それが道交法の改正により、第1分類の判定が出た時点で医師の診察が義務付けられ、認知症とはっきり診断されれば免許取り消しとなる。また、第2分類〈認知機能の低下の恐れ〉や第3分類〈認知機能の低下の恐れなし〉の判定が下っても、後に軽微な交通違反を犯しただけで再検査を求められることになった。
果たして新制度は高齢ドライバーの事故防止に繋がるのか──。
警察庁は2015年に年間約4000人だった医師の診察者が、改正法が施行された今後は10倍以上の約5万人に膨れ上がると推計。それに伴い、免許の取り消しなどの処分を受ける人は年約1万5000人にのぼると見ている。75歳オーバーの免許自主返納率が2%台となかなか進まないことも考えると、更新条件の厳格化は一定の効果がありそうだ。
しかし、こんな指摘もある。
「昨年、横浜市港南区で当時87歳の認知症の男が車で丸一日“徘徊”した挙げ句、登校中の小学生の列に突っ込み7人が死傷した事故では、逮捕された男は2013年の免許更新時の検査では異常がなく、その後、交通違反や事故も起こしていなかった。
認知症は人によって程度や進行スピードが違うし、日によっては記憶力や判断力がしっかりしている人もいる。そういった症状を的確に判断できる医師がどれだけいるのかは疑問。免許取り消しは、高齢者の生活を一変させるリスクもあるだけに、3年ではなく1年ごとに認知機能の低下段階を見ていくべきとか、免許取り消し後の生活支援策を拡充せよといった議論も残る」(全国紙記者)
一定の運転技能を保っているのに、ひとたび認知症の診断が下るとその程度に構わず免許を取り消してしまうのは乱暴だとの論だ。
モータージャーナリストで日本自動車ジャーナリスト協会会長の菰田潔氏もこういう。
「ある大学教授の研究では、自動車の運転を続けていると認知症になりにくいという研究があります。
私も自動車教習の機会がある度に、“運転はスポーツと同じ”と教えています。周りの状況を目で見てどうすべきかを頭で考え、実際に手と足を動かす行動を繰り返す。そういう癖をつけることが、認知機能を衰えさせないことにつながるのです」
では、実際にどこまで認知機能が低下してしまったら運転は危ないのか。