米国にトランプ政権が生まれたことで、日本経済にはどのような影響が出てくるのだろうか。経済アナリストの森永卓郎氏は、「プラザ合意の再来」による円高誘導が実施される可能性を危惧している。以下、森永氏が解説する。
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今後、日本はトランプ米大統領からとんでもない要求を突きつけられる可能性が極めて高いと思います。トランプ大統領のマクロ経済政策の柱は、法人税率を現行の35%から15%へ一気に引き下げることに代表される大規模減税と、今後10年間で最大1兆ドルを支出して大規模なインフラ投資をするという2点です。
私は、かなりの確率でトランプ大統領はそれを断行すると考えていますし、その結果、アメリカの景気は良くなるでしょう。ただし、この2つの政策は2つの大きな副作用を伴います。
まず、大規模減税や公共投資は、思い切り需要を喚起することになるので、インフレを起こすことが一つ。また、インフラ投資を行なうには、財源捻出のため米国債を大量に発行しなければならないので、アメリカの金利は上昇する。金利が上がるとドルを欲しがる投資家が増えるので、当然、ドル高が進むことがもう一つの副作用です。
問題は、その際にドル高とインフレが想定をはるかに超える高率となってしまう可能性が高いことです。そうなった場合、トランプ大統領のアメリカ国内の雇用を増やすという大目標は雲散霧消し、雇用は大きく減ることになり、実質賃金も大幅に下がるので、今のトランプ支持層からも不満が爆発しかねません。
それを避けるために、トランプ大統領が打つ手はこれまでの言動から明白で、“恫喝と強要”という手段を採るでしょう。具体的には、1980年代後半から1990年代前半に、アメリカが日本などを相手に行なった恫喝と強要外交の再現だと思います。
1980年代末にアメリカは包括通商法の中に「スーパー301条」というものを作りました。これは、アメリカの通商代表部が各国の輸入規制や非関税障壁で気に入らないものがある場合、「これを是正せよ」と要求し、それでも改めないと、その国の一番大切な産業品に高率の輸入関税を課すというものでした。
例えば、トヨタがメキシコにカローラの工場を作ることに対してトランプ大統領は、「とんでもない! アメリカに工場を作れ。さもないと高い報復関税を課すぞ」と文句をつけた。まさにスーパー301条と同じ恫喝方式をすでに使っているのです。
さらに、トランプ大統領はドル高を防ぐために、国際協調とは名ばかりで実際には日本に円高誘導を迫った、1985年の「プラザ合意」タイプの強要を行なってくることまで考えられます。当時はその後の2年間で、ドル/円相場は1ドル=240円から120円まで円高が進み、日本は円高不況に陥りました。
窮地に陥りそうになれば、必ずやトランプ大統領はそうした恫喝と強要の手口を繰り出してくる。恐らく年内にはやってくると見ます。
1980年代後半から1990年代前半を振り返れば、それがどういう結果を招くのか明らかです。急激な円高進行によって日本経済はガタガタになり、日経平均株価も大きく下落するでしょう。