中国政府は今後、全国各地の大学で、習近平国家主席の個人崇拝を強化する方針を決定した。中国共産党の路線の実行や党紀の整頓、党員の腐敗などを監督する党中央規律検査委員会が、中国各地の主要大学を調査することが明らかになった。
思想統制の目的で、規律検査委が大学を調査対象にするのは異例。秋の党大会をにらんで、習氏の権威強化を図る狙いがあるが、大学内部では強い反発や抵抗が起きており、米国の大学当局が思想統制を嫌って、米国人学生の中国留学を中止するという動きも出ている。
中国共産党機関紙「人民日報」によると、王岐山・党中央規律検査委書記が同委の会議で、各大学の調査について、習氏の重要指示を伝達し、「党の指導を堅持し、党の建設を強化し、習近平同志を核心とする党中央の権威を守ることが最も重要な政治原則である」と強調。
そのうえで、王氏は「巡視は、対象の党委、党組が『四つの意識』をしっかりと樹立しているかどうか、終始中央の政治・中央の大局を考えているかどうか、自覚的に党の路線・方針・政策を貫徹、実現しているかどうか、そして党中央の権威と集中的で統一的な領導を守っているかどうかを重点的に検査しなければならない」と指摘した。
検査の内容については、具体的には、習近平指導部が2013年春、各地の大学の党委員会に対して徹底視するよう命じた「七不講(チーブジャン)」に基づいている。
七不講とは「七つの言葉を使ってはならない」との党中央弁公庁の指示で、具体的には【1】人類の普遍的価値【2】報道の自由【3】公民社会【4】公民の権利【5】党の歴史的錯誤【6】権貴(特権)資産階級【7】司法の独立──を指している。
それぞれを分かりやすく言うと、【1】人権侵害【2】言論統制【3】政治活動の制限【4】国政選挙権の不在【5】(文化大革命や天安門事件などの)党の歴史的過ち【6】特権層の権益独占と腐敗問題【7】党権力による司法の支配――を論じてはならないということになる。つまり、共産党独裁体制の矛盾や恥部に対して国民の目と口をふさごうという狙いがある。
王氏は会議で「誤った思想や主張は海外メディアや反動的出版物のなかに大量に存在しており、インターネットや地下出版物(中国における発禁本)を通じて中国内に浸透している。また、西側の反中勢力と中国内の異見分子は絶えずわが国の意識形態領域に浸透し、われわれの意識形態を変えようと挑戦している」と主張しており、大学生ら知識人に対して厳しい思想統制を行うよう指示している。
しかし、香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によると、中国の大学幹部からは「極端に走って、知識分子に対して“左”が行ったような歴史の過ちを繰り返してはならない」との批判の声が出ているほか、米スタンフォード大学がこれまで行っていた学部生の中国留学支援プログラムを中止にするなどの動きが出ている。