かつて芸能人によるベストセラーといえば、エッセイやフォトブックなどではなく「告白本」「暴露本」が多かった。なかには、夫婦だった二人がお互いに本を出版しあうということも起きた。郷ひろみの『ダディ』(1998年・幻冬舎刊)は、妻・二谷友里恵と離婚に至るまでを赤裸々に明かしたもので、記録的なベストセラーとなった。タレント本収集家としても知られるプロインタビュアー・吉田豪氏は意外な読み方を語る。
「後から出た二谷さんの『楯』(2001年・文藝春秋刊)のほうが圧倒的に面白くて、『ダディ』が霞んでしまうほどです。
『ダディ』の〈友里恵以外の数人の女性と肉体的な関係をもった〉という記述に対し、〈「数」と「人」の二文字の間に“十”も“百”も入っていない〉と『楯』で反論。エスプリがあって、郷さんに対しての嫌味も効いていて、いい文章なんですよ。チクチクと刺すような。『ダディ』の〈僕の血がお嫁サンバを踊っている〉のようなギャグはないけど、断然『楯』のほうが面白い」(吉田氏)
夫婦間の愛憎劇を感じられる本としては、ジェームス三木のプライベートを暴露した山下典子の『仮面夫婦 私が夫と別れる理由』(1992年・祥伝社)と、その続編となる『夫婦戦争 妻が血を流すとき』(1993年・現代書林刊)を、吉田氏は絶賛する。
「この本のなかで三木さんが、女性とのセックスを記録した『春の歩み』なるノートを付けていたことが明らかにされたんです。女性のルックスをABCでランク付けし、〈キカイ〉という項目では、ずばり女性器について「毛深い」、「シマリ良好」と具体的に書かれていて(笑)。さすがに、当時のワイドショーでも後追いできませんでした」(同前)
※週刊ポスト2017年3月24・31日号