それに文句を言ったり、へこたれたりする人間には、そもそも起業はできない。なぜなら、仕事のプロである起業家および社内起業家というのは、他人から命じられた仕事ではなく、自分が自分に命じた仕事をするからだ。つまり、会社の使用人ではなく、自分自身の成功──言い換えれば「プロフィット・シェアリング」(会社の業績に応じた利益配分)を夢見て働くのがプロフェッショナルという職種なのだ。
ホワイトカラー・エグゼンプションの議論で(使用人の象徴である)年収を指標に使ったのは、この点からも全く間違っている。
ビジネスは、商品やサービスを創造して新しい価値を生み出した人間(およびその集団)が勝つ。その新しい価値を生む人間にはいくら給料を払ってもかまわないし、何時間働いたかは全く関係ない。そういう貴重な人材を1人でも多く採用するのが、経営者の最も重要な役目である。
それを政府が“上から目線”で「残業の上限は最大で月60時間・年720時間」「違反したらペナルティ」「年収1075万円以上は例外」などと規制するのは、的外れもいいところだ。この規制を悪用して虚偽の長時間残業をさせられたと訴訟を起こす輩が出てくるかもしれないし、逆にサービス残業が増えるおそれもあるからだ。また、残業が少なくなったら、給料が減って困る人もいるだろう。
要するに、これは企業ごとの労使協議に預けたほうがよい問題であり、政府が杓子定規に全国一律に規制すべき話ではない。ビジネスの現場を知らない政治家と役人に「働き方改革」ができるはずはないのである。
※週刊ポスト2017年3月24・31日号