日本に“新しい正社員”が大量に発生する事態が迫っている──。2013年4月に施行された改正労働契約法18条では有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換できることを定めている。
つまり2013年4月に契約更新した1年契約の有期契約社員が6年目の契約更新を行えば、会社の承諾なしに無期転換申込み権が発生し、本人が希望すれば会社が定める正社員と同じ定年(定年後再雇用も含む)まで雇用が保障されることになる。
パート・アルバイト、派遣などを含む有期契約社員は全国に約2000万人もいるが、そのうち3割が5年を超えている。2018年4月以降は一挙に600万人の無期雇用社員が誕生する可能性もあり、その後も順次増えていくことになる。
だが、一般的に定年まで雇用が保障されている人を正社員と思いがちであるが、この人たちは普通の正社員ではない。
法律上は無期雇用になるといっても給与や職務、勤務地、労働時間などの労働条件はこれまでの有期労働契約と同じでよいとされている。つまり、雇用は保障されているが、給与が上がり、賞与も支給する既存の正社員と同じ処遇にするかどうかは企業の考え方次第ということになる。
では実際に企業は無期転換にどのように対応しようとしているのか。選択肢は【1】正社員化(勤務地・職務・労働時間限定の限定正社員を含む)【2】処遇は従来と変わらない無期社員【3】5年を前に雇止め【4】転換の申込みを避けるための無期社員区分の設置──などが考えられる。
厚生労働省としては雇止めの防止と限定正社員を含む正社員化を働きかけるための周知活動を展開しているが、現実の動きは正社員化と処遇はそのままの無期社員化という大きく二極化している。
大手小売業や外食・サービス業のように正社員を含めてパート、アルバイトの確保が非常に厳しい企業は正社員化の動きを加速している。中には5年の無期転換を待たずに正社員に登用するなど囲い込みを図っている企業もある。
たとえば三越伊勢丹は正社員とは別に入社後1~3年目は有期契約、4年目以降は無期契約となる「メイト社員(フルタイム)」という雇用区分を設けていたが、2016年4月に入社初年度から無期契約にしている。メイト社員は異動・出向はないが、昇給型の給与と賞与、退職金も完備している。
メディアでも小売業や飲食業のように人手不足に苦しむ企業が正社員化を図るニュースが盛んに報じられている。
だが一方ではメーカー系を中心に処遇そのままの無期契約に移行する企業も多い。「じつは全体の趨勢としてはこちらが多い」と指摘するのは、多くの顧問先を抱える社会保険労務士だ。