春の選抜高校野球にいよいよ真打ち登場だ。高校・大学野球の選手向けフリーマガジン「サムライベースボール」の編集長である古内義明氏が、清宮幸太郎が追い求める理想についてレポートする。
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早実の清宮幸太郎が甲子園に帰って来る。高校1年の夏、日本中が注目した怪物。最上級生となった清宮がどんな成長を遂げるのか。第89回を数えるセンバツの最大の注目点と言っても過言ではない。
3月10日に行われた抽選会。大会5日目(23日)の第2試合で、「早実対明徳義塾」の対戦が決まると、会場はどよめきに包まれた。明徳義塾のイメージを聞かれた清宮は、「やっぱり松井さんのやつ(甲子園での5打席連続敬遠)じゃないですかね」と話した。1999年生まれの清宮だが、1992年夏の甲子園で、当時の星稜の4番だった松井秀喜氏が5打席連続敬遠する姿は、映像で見たことがあるという。
一方、明徳義塾の指揮官は、歴代5位の通算48勝を挙げた百戦錬磨の馬淵史郎監督。「清宮君の大会みたいな感じで盛り上がっていますから」と意識し、「(全打席敬遠は)ない。松井に怒られる。終盤の1点リードだったり、状況によって(敬遠策は)やる」。選抜初優勝を目指す知将は、清宮封じに力を込めていた。
かつて松井秀喜氏に、「5打席連続敬遠」に関して水を向けたことがある。
「漫画『ドカベン』が好きで、山田太郎と同じ5打席連続敬遠と同じ体験をするとは、夢にも思いませんでした」と懐かしむと、「あの経験はいまでも大きな財産で、その後の野球人生でプレッシャーに感じたこともありました。5打席連続で敬遠された打者を背負っていき、心のどこかで、それほど脅威であることを証明しなければいけない気持ちがありました」と吐露した。
新チームになって、主将に就任した清宮は、「GO!GO!GO!」のチームスローガンを掲げて、秋の明治神宮大会で準優勝し、4年ぶり21回目の選抜出場を決めた。清宮自身は高校通算79本塁打をマークし、和泉実監督も、「打とうという気持ちの強さと修正能力の高さ」を評価している。
かつて「理想の選手」という話になった時、清宮はひと呼吸おいてから言った。
「リトルリーグの世界大会後、ヤンキースタジアムに行ったことは今でも鮮明に覚えています。ここでやらなければいけないと言われているような、威圧感のあるスタジアムでした。そこで活躍した松井秀喜さんです」
あの時、理想に上げた松井秀喜氏が、「あの日があったからこそ」と野球人生のターニングポイントに上げた明徳義塾と、今度は清宮が対戦することになるとは、野球の神様も粋な計らいをするものだ。