国際社会はもちろん、アメリカ国内のトランプ支持者も、そのうち彼を見放すだろう。トランプが目玉としている政策は、どれも実行不可能だからだ。象徴的なのが経済対策である。トランプは大企業を中心に大規模な減税を実行する方針を示した。その一方で、規制を大幅に緩和し、企業の設備投資を促すと主張している。
これらは、かつてのレーガノミクスを真似たものだ。方向性としては間違っていない。しかし、トランプがレーガンと違うのは「非常識」であるということだ。あの男には、同じ政策をやろうと思っても実現不可能なのだ。
レーガノミクスは、多くの企業がバックアップした。レーガンの人間性を国民が愛し、信頼していたからだ。だがトランプは違う。一部の旧態依然とした重厚長大企業のトップはトランプを頼っているようだが、いまのアメリカの成長を支えているのはグーグルやフェイスブック、アップルといった先端企業だ。それらの企業には、トランプが大統領令で入国禁止にした国々から来た優秀な社員が数多くいる。
グーグル会長のエリック・シュミットは、トランプによる入国禁止の大統領令を「邪悪」と断じた。アップルCEOのティム・クックも、社員へのメールで、「(大統領令は)支持できない。移民なくして、今日のアップルは存在しない」と批判している。名だたる世界的企業がトランプに厳しい目を向けている中で、経済政策がうまくいくはずがないのだ。
そもそも、アメリカ政府にはカネがない。日本円にして約2000兆円もの莫大な政府債務を負っている中で、成功する見込みのない減税などやったらどうなるか。「国債発行枠」という借金の上限がある中で、議会が上限引き上げをボイコットすれば、たちまち政府機関の手元資金は枯渇する。するとあっという間にトランプ政権は瓦解するだろう。
どう考えても、トランプがレーガンのようにアメリカを再び輝かせるようなことはあり得ない。そんな男と向き合うなら、やはり安倍は「犬」になるのではなく必要に応じて「ケンカ」すべきなのだ。
※SAPIO2017年4月号