どんなに立派な実績を持った大打者、大エースでも開幕戦は特別な緊張感があるというが、それは指揮官も同じ。名将・野村克也氏が、チームを優勝に導いた1997年の開幕戦、巨人対ヤクルト戦(東京ドーム)のドラマを振り返る。
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1997年は優勝へのはずみがついた開幕戦だった。5年連続で巨人の開幕投手を務める斎藤雅樹には前年、全く勝てずヤクルトは0勝6敗。そのうえ斎藤は3年連続完封勝利と、開幕戦にめっぽう強かった。ベンチも斉藤の名前を聞いただけで負けたような雰囲気。なんとかしないといけないと思った。
ちょうどこの年、広島を自由契約になった35歳の小早川毅彦を獲っていた。この男が、俺のミーティングを聞いて「野球をこんなに深く考えているんですか」と感激しているわけだ(苦笑)。“バッティングの8割は次の球への備えだ”とか、少し教えただけで見違えるように良くなった。
それで開幕戦で5番を任せてみたら、2回にストレート、4回にはカーブ、6回にはシンカーと、すべて別の球種をとらえて3打席連続本塁打を放った。自由契約になった選手だから、3連発なんて誰も予想していない。意識改革だけでこんなに変わるのかと思ったね。勢いに乗ったこの年は日本一になった。
やはり、開幕戦は「143分の1」じゃないんだよ。
【試合データ】
1997年4月4日(東京ドーム)
ヤクルト6-3巨人
■取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2017年4月7日号