長いプロ野球の歴史の中には、「伝説」と呼ばれる開幕戦がある。1994年のパ・リーグ開幕戦、西武対近鉄戦もそんな試合のひとつだ。
吉永小百合の始球式で幕を開けたゲーム。近鉄の先発はトルネード投法でデビューから前年まで4年連続最多勝に輝いた野茂英雄。この日も150kmの速球と切れ味鋭いフォークで三振の山を築く。西武打線から6回までに12奪三振。8回まで無安打に抑え、「三振記録とノーヒットノーランの両方を心配せなあかん」と西武・森晶祇監督は苛立った。
だが、9回裏に流れが変わる。先頭打者の清原和博が初ヒットを打ち、四球、エラーで1死満塁となると、「3点リードの近鉄ベンチはあっさり野茂を降板させ、赤堀元之をマウンドに送った。これには西武ベンチも記者席も驚いた」(スポーツ紙記者)という。
結果、赤堀は打たれた。森監督は打撃コーチが進言した代打策を却下し、捕手・伊東勤を打席に立たせる。伊東が放ったのは史上初の開幕戦逆転サヨナラ満塁本塁打だった。たった2安打で勝利した西武は開幕戦の勢いのまま、リーグ史上初の5連覇を達成する。
【試合データ】
1994年4月9日(西武球場)
西武4×-3近鉄(9回サヨナラ)
■取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2017年4月7日号