長いプロ野球の歴史の中でも、極めつけの伝説として語られるのが、1958年4月5日に後楽園球場で行なわれた巨人対国鉄の開幕戦だ。
東京六大学通算8本塁打という当時の新記録を打ち立てて巨人に入団したゴールデンルーキー・長嶋茂雄のデビュー戦。国鉄のエース・金田正一との直接対決は岸信介首相も観戦に訪れ、日本中の注目を集めた。
4万5000人の観衆の前で、長嶋は4打席4三振。金田が投じた19球のうち、バットに当たったのはファウルの1球のみ。それも、よけたバットにボールが当たったものだった。
それ以外のストライクは見逃しが2球、空振りが9球。速球、ドロップ、シュート、カーブを駆使して、当時すでに7年連続20勝を含む通算182勝をあげていた金田は格の違いを見せつける。金田は、この日、負けられない理由があったと振り返る。
「胃がんに侵された親父を東京の病院に入院させるため、名古屋から呼んでいた。親父には病気のことは知らせておらず、開幕戦を観てとても喜んでくれた。その夜、親父や弟たちとささやかな宴を開いた。翌日から親父は入院し、1年後にこの世を去った」
長嶋4三振の印象ばかりが強いが、この日は巨人のエース・藤田元司も速球とシュートが冴え、試合は延長戦にもつれた。11回表、藤田が本塁打を浴びて勝負が決している。
金田は「4じゃなく5連続だよ」と笑い飛ばす。
「翌日も長嶋が出てきたから、ワシは志願してリリーフで登板したのよ。そこでも三振だったからな」
長嶋は対金田23打席目に初本塁打を放つまで抑え込まれたが、この年、29本塁打、92打点で打撃2冠王と新人王に輝いた
【試合データ】
1958年4月5日(後楽園球場)
国鉄4-1巨人
■取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2017年4月7日号