愛する家族や古くからの友人に先立たれた時、その人が自分にとって大切な存在であればあるほど「もう一度会いたい」と願うのは自然なことだ。実は、死別したかけがえのない人との“邂逅”を体験している人は、決して少なくない。『看取りの医者』の著者で、630例を超える看取りを行なってきた平野国美医師によれば、終末期医療の現場では、病床にある患者の夢枕に、すでに亡くなった親しい人が立ち、あの世から手を引く「お迎え現象」をよく目にするという。
◆また会えましたね
お迎えにくるのは、家族とは限らない。ただ、その人にとって大切な存在であるのは確かそうだ。
「日本画家だった90歳の男性は、意識が混濁としているのに、半分目を閉じながら絵を描く動作をするんです。その後、正気に戻ったときに『絵を描いているのですか?』と尋ねると『師匠が“こっちで一緒に描かないか”と声をかけてくれた』と答える。さらには起き上がる力もなかったはずなのに、胡座(あぐら)をかいて絵筆を動かすような仕草まで始める。『あっちでは羽が生えたように体が軽くて、思うように描けるんだ』と。最後は動きを止め横になり、穏やかなお顔でお亡くなりになりました」(平野氏)
趣味として続けていた社交ダンスの先生に先立たれた85歳の女性は、目を覚ましては「昨日の夜は先生と一緒にダンスをしたの」というようになり、寝たきりの状態のまま、ダンス中のように腕を動かしたりするようになった。息を引き取ったときの表情は幸せそうに見えたという。