「大人の男女にとって最大のリスクは“結婚相手”」。そう語るのは、作家の藤沢数希氏だ。藤沢氏は新刊『損する結婚、儲かる離婚』(新潮新書)で、結婚と離婚で動くお金について解説し、結婚制度という金融商品の欠陥を鮮やかに暴いていく。と同時に、結婚したい男女はどういう相手を選ぶべきか、様々な観点から、具体的なアドバイスを送る。「この本は、婚活中の男女にこそ読んでほしい」と話す藤沢氏のインタビューを【前編】【後編】、2回にわたってお届けする。
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■「まじめに働いていたほうが馬鹿を見る」のが結婚と離婚
──本書では、結婚と離婚で動く3つのお金について、まず説明されています。「慰謝料」と「財産分与」は知っていましたが、「婚姻費用(通称、コンピ)」を知りませんでした。
藤沢:ほとんどの人が知らないんですよ。離婚話が浮上して、家庭裁判所から支払い命令が下って初めて、結婚というのはこういう制度だったのかと気づくんです。もちろん弁護士の結婚や離婚の本などに、載ってはいます。でも弁護士はポリティカル・コレクトネスが大事な業界だから、婚姻費用は夫婦が同じ水準の生活をするためのもの、とは書いてはあっても、それをテコにして結婚相手からお金をぶん取れる、とは書いてないんです。
──離婚時に恐ろしいのは「慰謝料」ではなく、実は「財産分与」と「コンピ」であると藤沢さんは指摘していますね。
藤沢:慰謝料は相場が決まっていて、浮気などは高くてもせいぜい200万円ぐらい。お金持ちにとっては大した金額ではありません。しかし、財産分与やコンピは所得が増えれば青天井に増えていきます。特にコンピは離婚が成立するまで、ざっくり言うと、可処分所得の半分を奥さんに送り続けるというもので、金額も多く、いつ終わるかわからない恐怖があります。無限地獄になりうる。「コンピ地獄」と呼ばれる所以です。
──本の冒頭では、浮気した妻に、毎月37万円の婚姻費用を2年間払い続けた夫の例が紹介されています。「まじめに働いていたほうが馬鹿を見る世界」というわけですね。
藤沢:そうなんですよ。先日も、タレントの小倉優子さんが、妊娠中に浮気をしていた旦那と離婚したときに、慰謝料ゼロ、というのが話題になりましたが、小倉優子さんはちゃんと仕事をしていたし、将来のことを考えて貯金もしていたようです。だから、離婚するためには、小倉優子さんが旦那に金を払う必要が、おそらくはあったのです。浮気の慰謝料より、財産分与のほうが遥かに大きいですからね。そして、もちろん、法律は男女平等です。
また、本の冒頭のケースですけど、サラリーマンは婚姻費用を取りやすいんです。毎月の給与額が決まっていて安定しているし、払わなかったらすぐに差し押さえができます。コンピ地獄に嵌(は)めやすいんです。これは何も高額所得者に限った話しではありません。まともな仕事である程度の所得を得ている人だったら、自分の財産の半分程度ではまず離婚できない。
一方で、ない金は絶対に取れないから、毎日飲み歩いたり、浮気して若い女にたくさん貢いだりするようなダメな旦那からは、貯金もないから、何も取れません。そういう離婚が多いのも事実です。男女にかかわらず、まじめに働いて、まじめに財産を貯めている人が馬鹿を見るのが結婚と離婚の法律です。
──いったん結婚すると、法律で既得権益が守られるんですね。
藤沢:そういうことです。結婚は、金融商品としての側面に限れば、ゼロサムゲームなんですよ。金持ちの男性側のリスクや損失は、とりもなおさず、そうした男性と結婚する側のリターン、利益になる。つまり金持ちの男性と結婚したがるように、法律自体ができていると言えるんです。いったん金持ちと結婚してしまえば、その権益は法律で保護されます。東京の白金なんかでランチで5000円もするようなレストランに行くと、コンピで優雅に暮らしている奥さんをけっこう見かけるんですよね。旦那は若い愛人と暮らしていたりするのですが、法律上の妻には、永遠にコンピを支払う必要があるからです。
法律がこうなっていますから、金持ちの男性と結婚して手厚く守られる一握りの女性と、未婚を貫いて生涯子どもを産まない女性、という二極化につながっているのだと思います。