稀勢の里の大逆転優勝で幕を下ろした大相撲春場所は、これまでと何もかもが違っていた。かつて本誌・週刊ポストは“仕組まれた千秋楽”の疑惑を追い、八百長追及・角界浄化キャンペーンを展開したが、今回の春場所終盤戦ではまさに結末のわからないドラマが展開されていた。奇跡の優勝の舞台裏で起きた異変には、相撲の「見方」を大きく変えるほどの衝撃があった。
今から38年前。1979年9月の秋場所では、「7勝7敗」で千秋楽を迎えた6人の力士が揃って全員、勝ち越しを決めるという奇妙な現象が起きた。
どうしてそんな“偶然”が起きるのか──その疑問を解くべく取材に動いた本誌が行き着いたのが、角界を蝕む「八百長」の存在だった。八百長を取り仕切る「中盆」を務めていた青森県出身の元十両力士・四季の花の実名証言を得て、翌1980年5月に八百長告発を主体とした角界浄化キャンペーンがスタートする。
稀勢の里が史上4人目となる昇進場所優勝を決めた春場所千秋楽を「7勝7敗」で迎えた力士は、奇しくも38年前と同じ6人。
遠藤(前頭5)、碧山(前頭6)、栃ノ心(前頭10)、石浦(前頭11)、宇良(前頭12)、大翔丸(前頭13)の6人だ。
遠藤と栃ノ心は7勝7敗同士の対戦となり遠藤が勝つ。残り4人の相手は、いずれもすでに負け越しが決まっていた力士だった。
だが、4人のうち勝ち越しを決めたのは碧山と宇良の2人だけ。しかも宇良と逸ノ城(前頭7)の対戦は物言いのつく際どい一番だったし、碧山の相手の妙義龍は十両転落もあり得る前頭14枚目での9敗目だった。
6人のうち3人が勝ち越しという、力の拮抗する者同士の対戦としては至極当たり前の結果に落ち着いたことこそ、角界に地殻変動が起きた証左だろう。