「一発屋」という言葉が一般名詞になって久しい。一発ギャグでテレビを席巻し、ブームが終われば消えていく──栄枯盛衰激しい芸能界を象徴する存在だ。その対極にあるのが、長くレギュラー番組を続ける大御所タレントだ。特にビートたけし、明石家さんま、所ジョージの3人は、テレビでその姿を見ない日はない。彼らはなぜ、いつまでもテレビに出られるのか? 彼らの出演番組はなぜ長寿なのか? 吉川圭三氏の新著『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』(小学館新書)は、その謎を正面から解き明かす。
吉川氏は日本テレビで数々の長寿番組を立ち上げた元名物プロデューサーだ。『世界まる見え!テレビ特捜部』ではたけし・所と、『恋のから騒ぎ』『踊る!さんま御殿』ではさんまとタッグを組んだ。吉川氏がいう。
「私は30年超のテレビ屋生活で、幸運にも3人の天才の『プロフェッショナリズム』を間近に目撃することができた。彼らは一見、天衣無縫に見えるけれども、その内実は『仕事人としての哲学』にあふれている。安易な焼き直し番組が量産され『テレビ離れ』などと揶揄されるなか、後進のためにプロとしての彼らの姿を残しておきたいと執筆を決意したのです」
ここでは、心に残るさんまの「すごい」逸話を一つ紹介。800万円をフイにしても、さんまは「現場の空気」を最優先した。
「楽しくなければテレビじゃない」と掲げ、栄華を誇った1980年代後半のフジテレビ。後塵を拝する日本テレビの上層部は若手テレビマンの吉川氏に「明石家さんまをフジからぶんどってこい」という特命を授けた。
吉川氏らは、1年にわたる努力の末、さんまを日テレに出演させることに成功する。しかしさんまとの仕事はカルチャーショックの連続。時間と金をかけて作った800万円の超高額セットでも、さんまは「現場の空気に合わない」と思うと「いらんわ」とバッサリ切って捨ててしまう。「それ以来、『テレビは空気が大事なんや』というさんまの哲学が日テレに浸透していった」(吉川氏)という。
イラスト■佐野文二郎
※週刊ポスト2017年4月14日号