運転士、警察官、飲食店員──世の中を見渡せば多くの人が仕事をする際、「制服」を着用している。この最もポピュラーな仕事服ともいえる制服だが、「その歴史はまだ浅い」と語るのは『日本の制服150年』著者の渡辺直樹氏だ。
「日本人が洋服を着るようになったのは明治以降。明治維新から来年で150年だが、制服の歴史はそれだけしかない。最初に伝わった軍服をルーツに警察官や郵便集配人の制服が生まれ、各職業に派生していった」
サラリーマンが着るスーツも、元をたどれば軍服が原型だという。
「制服は職業に必要な『機能』のほか『看板』としての面もある。CAに制服がなければ乗客と見分けがつかなくなるように、私たちも無意識に『この人は○○屋さんだ』と制服によって判別しているわけです」
ただしバブル崩壊以降、国内の制服業界は苦境。銀行員の例を挙げるまでもなく、制服廃止を選択する企業が続出したからだ。
「他の衣料と異なり、『売っておしまい』ではないのです。設計時点で耐用年数が想定され、メンテナンスも含めた対応が必要。それにはコストもかかる」
そんな中、新たな得意先となりつつあるのはパチンコ業界。大型グループが斬新なデザインの制服を大量発注することもあるそうだ。
「制服には着用者の『職業への誇り』が宿っている」と渡辺氏はいう。制服というフィルターを通せば新たな発見があるかもしれない。
イラスト■渡辺直樹:1963年東京生まれ、イラストレーター。桑沢デザイン研究所ファッションドローイング講師。ユニフォームメーカーが企業にプレゼンする際のデザイン画を長年手がけてきた経験を活かし、2016年に『日本の制服150年 イラストで見る制服のデザイン』(青幻舎)を刊行。
※週刊ポスト2017年4月14日号