どんなに辛いことがあって私は負けない──そんな思いを持って生きてきた女性が半生を振り返る。高1で先輩の子を妊娠、中絶。卒業後、交際した男にそれを話すと嫉妬して暴力。そこから逃がしてくれたのは、親子ほど年の離れた職場の上司。19才の時、二人で地元から離れ上京したが、彼もまた追われる身だった――。千葉県の上村みどりさん(60才)の告白手記の後編を掲載します。
〈本稿は、「自らの半生を見つめ直し、それを書き記すことによって俯瞰して、自らの不幸を乗り越える一助としたい」という一般のかたから寄せられた手記を、原文にできる限り忠実に再現いたしました〉
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◆レミーマルタンを飲ませてくれた上司が、私に「1000円あるか?」
いくら世間知らずの私でも、「妻と離婚して一緒になりたい」と言われ、二人して東京に逃げて来た上司がおかしいと思うことはあったんだ。
たとえば、「妻子に居場所を知られると、連れ戻されるから、住民票の移動はできない」って。だから電話も引けないし、日雇い以外の仕事ができないって。
じゃあ、どうやって私と結婚するのよ。
田舎のクラブとはいえ、レミーマルタンを飲ませてくれた上司が、私に「1000円あるか?」と聞くようになったのもヘン。
日々の生活費にも困るようになって、それで私はキャバレーのホステスに戻ったわけ。
そんな時に上司の子を妊娠したけど、産めるはずがないよ。前の中絶は親がかりだったけど、今度は私ひとりの決断。国民健康保険に加入していないから、路地裏でひっそりと営業している産婦人科で実費で堕胎手術を受けたんだ。
そのお金も、店の店長にわけを話して借金して…。この時ほど惨めな気持ちを味わったことは後にも先にもなかったわね。
逃避行から1年ほど経った頃、同じ郷里の知人が店に来たの。私と上司が同棲していることを知ると、顔色が変わって――後から考えたら彼が警察に密告したのね。
朝、カンカンカンッと階段を上ってきた警察官たちに、彼が連れて行かれたとき、実は正直、ホッとしたんだ。
お互い、一度もそのことを話したことはなかったけど、上司が会社のお金を横領していたことは、なんとなく私もわかっていた。それで身動きが取れなくなっていたから。
上司が逮捕されてから、何度か私も警察に呼ばれて、いろんなことを聞かれたけど、すぐに共犯じゃないことはわかってもらえてね。
でも田舎で新聞沙汰になっちゃった。幸い、ギリギリ未成年だったから「犯人と一緒に逃避行した少女A」ですんだけど、両親や親戚は大騒ぎよ。
「どこまで恥さらしをすれば気がすむんだ」と、訪ねて来た母親においおい泣かれたときは、心底「ごめん」と謝って、私も大泣きしたわよ。
でも、口うるさい田舎のこと。新聞沙汰になった女の居場所はないんだよ。「やっぱり帰って来ないで」と親に言われ、東京で生きていくことにした。それが20才のとき。私も若かったよねぇ。