勉強から遠く離れていたが、再び学ぼうと、大学の門を叩く人が増えている。「大学で勉強」といっても、過酷な受験勉強や多額の受験料、入学金が必要なわけではない。もっと気軽に、たくさんある講座の中から好きなものや興味のあるものを選び、受講することができる「公開講座」や「科目聴講生」などの制度があるのだ。
例えば、全国で最大といわれる早稲田大学エクステンションセンターでは約1800もの講座の中から選んで受講することができる。入学試験はない。
ほとんどの講座は有料だが、テレビに出るような有名教授から直接講義を受けられたり、広い図書館や学食が利用できたりという“特典”は無料のカルチャースクールや地方自治体が行う講座に優るようで、多くの人が通っている。
多くの大学で公開講座を行っており、学びの場は身近にあふれている。
「日常からかけ離れたことを学ぶと、ふだんの嫌なことが些末に思えてきます」
と話すのは、昨年、定年を迎えたエリート男性の迷いや葛藤を描いた『終わった人』(講談社刊)が大ベストセラーになった脚本家・内館牧子さん(68才)だ。
「私が最初に学び直したのは54才のときでした。横綱審議委員の在任中でしたが、私にしてみれば納得できない男女平等論や、上位力士の規範の乱れなどがあり、相撲を学問として学ぶ必要を感じ、東北大学大学院の修士課程に進学しました。正式な大学院生として、宗教学を専攻しました」
しかしそこで、思わぬ楽しさを知ることになる。
「『キリスト教史』が必修だったのですが、これは目がさめましたね。講義で、『ヘレニズム文化、ヘブライズム文化』という言葉が出てきたんです。大学受験で世界史を勉強した時以来、まったく無縁の言葉ですよ。他にも『アレキサンダーの東方遠征』とかね。
ああ、私はこれまでテレビ局の窓のない部屋で打ち合わせをして、視聴率を気にする暮らしだったけれど、ヘレニズムとかアレキサンダーとか40年ぶりくらいに思い出して、今までの暮らしがふっと遠くに行ったのね。日常に追われることだけが人生ではないなって」(内館さん)
だが、東北大は仙台にあるため、大学院修了と共に東京に帰り、また日常に戻ったわけである。
「でも、相撲の論文を書く中で、やっぱり古事記とか日本書紀だとかも読み、陰陽道だの山岳宗教だの日常には何の役にも立たないことを学んだことで細かいことが気にならなくなった。そういう私の体験から、日常からかけ離れたことを学ぶことをお勧めしたいですね。隣の奥さんの意地悪とか、夫の甲斐性とか、ママ友のつきあいとか、本当にどうでもよくなると思います」(内館さん)