築地市場の豊洲移転問題が迷走している。責任の所在を巡って百条委員会が開催され、新聞・ワイドショーは連日「犯人」探しを続けている。筆者が向かったのは、石原慎太郎元都知事らの証人喚問に熱狂する都議会ではない。古谷経衡氏が、語られざる、もう一つの豊洲を歩く。
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今更ながら豊洲に行ってみた。理由は、「戦犯探し」とばかりに都議会が百条委員会に石原慎太郎元知事を引っ張り出してきたことで、従前から感じていた小池百合子に対する違和感が嫌悪感へと変わったことだ。視聴率が取れる、というほぼそれだけの理由で所謂「豊洲問題」は稚内から石垣島にまで放送され、熱狂的にクローズアップされ続けている。
なぜ豊洲への市場移転の是非が争われているのか?
A.土壌から環境基準値を超える汚染物質が検出されたから。ではなぜ豊洲新市場予定地から汚染物質が検出されるのか?
A.元々この土地は東京ガス所有の工業地だったから──。
この位の知識はいまやほとんどの国民にとって常識だ。しかしこの豊洲の地になぜガス施設が存在していたのか、その根本の歴史を知る人は多くない。メディアは小池劇場に夢中で、この土地の悠久の過去に無関心だ。
普段、国道沿いの排気ガスで汚染されまくった空気をたっぷりと換気口から呼吸して平然としていても、すわ「ベンゼンが」「シアンが」と騒がれると目くじらを立てる人々には、歴史の重さよりも小池劇場こそが新鮮に映る。
まだ始まってもいない豊洲新市場から、まだ出荷されてもいない未来の食品の安全を心配する割に、福島原発事故でばら撒かれた半減期30年のセシウム137や同2万年のプルトニウムには無関心を貫いている。よほど普段から食物に完全無欠を求める「海原雄山」的人生を送っているのだろう。