医者の言うままに治療を受け、薬を飲み続けている──なのに快復に向かわない。もしかしたらそれ、「誤診」ではないだろうか? 医者が言うことだからと妄信してはいけない。なにしろ医者自身が一番、誤診の危険性を知っているのだから。
「私の誤診率は14.2%である」
神経内科の権威で東大名誉教授の冲中重雄氏は、1963年、東大を退官する際の最終講義でこう述べた。
これは臨床診断と剖検(病理解剖)結果を比較して出した数字で、医療関係者はその率の低さに驚嘆したが、市井の人々は逆に、日本最高の名医でも14%も誤診があるという事実に衝撃を受けた。
それから50年以上が経過した。体の内部をチェックするMRI(磁気共鳴画像)検査などが導入され、医療は確実に進歩しているが、誤診の割合は変わっていない。神経内科医の米山医院院長の米山公啓氏が言う。
「近年は医療の専門領域が細分化され高度になった半面、医師に柔軟性や対応力が欠けているように思います。“全体を診る医療”という意識が希薄になっており、自分の専門外の病を患った患者に誤った診断を下したり、重篤な病気を見逃してしまうケースがある。とくに、どんな変化でもかかりつけ医にまず相談をしてしまう高齢患者が“被害”に遭っているように思います」
2004年に世界的に有名な医学専門誌『Archives of Internal Medicine』に、フランスの医師らがICU(集中治療室)で死亡した人々の剖検結果についての論文を掲載した。そこには〈生前診断の約30%は誤診だった〉と書かれていた。再び米山氏が言う。
「最初の診断が間違っていれば、その後も誤診のまま治療が進み、自分が本当は何の病気だったかわからないまま死んでしまう人が、これだけいたということ。医療先進国のフランスでさえこの数字です。日本でも同様の確率で誤診が起こっていてもおかしくない」
※週刊ポスト2017年4月28日号