古くから製鉄業が盛んな広島県庄原市に古風な西洋建築物が残る。昭和12年から14年ごろに建てられた、削岩機などの製造・販売を行なうヤマモトロックマシン(旧・山本鉄工所)の旧社員寮だ。
現在は入居者はいないものの、その風格ある建物は昨年2月に有形文化財に登録された。
屋根に西洋瓦を葺いてドーマー窓を備える。見た目は洋館だが、木造の3階建てで内部は和風。8人部屋の独身用の棟と家族用の棟に分かれている。
独身寮の各部屋は障子一枚で仕切られているだけで、木造ロッカーには鍵もない。最盛期には150人ほどの工員が“家族”のように暮らしていた。
「ここに10年おったけど、お金がなくなったなんて話は一回もなかった。この寮に住んどった人に会うと、『ここが人生の出発点じゃった』という」(昭和31年入社の川上廣美さん)
独身者の多くが、工場で働きながら定時制高校に通う10代の若者だった。時代が変わって定時制に通う者が減り、社員寮は昭和45年にその幕を閉じた。
※週刊ポスト2017年4月28日号