昔のプロ野球選手名鑑を見ると、一流選手の自宅の住所が掲載されていて驚くが、今や小中学校のクラス名簿さえ家族の同意を得る時代だ。国道沿いの町内案内板に自分の名前が記されてしまった場合、撤去を求められるだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
地方の町に引っ越したのですが、とても驚いたことがあります。それは町の入り口の国道沿いに町内案内板が立てられており、住宅ひとつひとつに住民の氏名が記されていることです。宅配業者には便利かもしれませんが、物騒な世の中ですし、不安があります。この案内板の撤去を求めるのは可能ですか。
【回答】
看板自体の撤去は無理でしょうが、自分の名前の掲載拒否を要求できると思います。個人の私的な情報で、世間一般の人の感受性を基準にし、他人に知られていないことで、知られると不安に感じたり、困惑するような事柄は、プライバシーとして法的保護の対象となります。
住所氏名は、生活を営む上で必要な範囲であり、他人に知られることはやむを得ませんし、知られないと生活自体が成り立ちません。しかし、住所・氏名を未知の人に広く知られるのは、多くの人が不安に感じることです。
住所氏名は個人固有のもので、特定の個人を識別できる個人情報として、その人のコントロールできる情報で、個人情報保護法による保護の対象です。そこで住所・氏名を看板に掲げて公表することは、プライバシー侵害になりえます。
許されるのは、こうした不安・困惑よりも公表する理由が優先する場合です。インターネットに住所氏名を無断で掲載された人の削除や慰謝料を認容する裁判例が、最近は少なくありません。ただし、看板はインターネットのように誰もがどこでも簡単に見られるものではなく、その場に出向かなければ知ることができません。その意味では、住民の便宜を考えたと推測される行政の対応もあながち不当ではありません。