このところ日本企業では創業家の存在が見直され、経営トップの座を創業家に“大政奉還”する企業が目立つ。
“大政奉還”で危機を乗り切った嚆矢がトヨタだ。創業者である豊田佐吉のひ孫、豊田章男氏はリーマンショック後の赤字決算という苦境のなかで社長に就任し(2009年)、1年目にさらに大きな危機に直面した。米国を中心に広がった新型プリウスのリコール問題だ。章男氏は米議会の公聴会に呼び出され、激しいバッシングにさらされたが、トヨタは章男氏の下で結束して立ち向かい、2015年度には過去最高益をあげた。
そのトヨタは章男氏の代になって「豊田家本家」への純化路線を強めている。
今年2月には佐吉の出身地、静岡県湖西市で「生誕150年記念式典」が盛大に開かれ、孫の章一郎氏が「困難をものともせず発明に一生を捧げた」と祝辞をのべた。それを皮切りに、3月には豊田市が2代目の喜一郎の功績を讃える「顕彰祭」を開催、4月には愛知県が佐吉の生誕150年を記念して7~8月に「あいち発明の夏」と銘打った大型イベントを開催すると発表した。具体的には「世界青少年発明工夫展」や「ロボカップ世界大会」などが開かれ、6代目社長の章一郎氏が記念講演を行なう。自動車業界誌のベテラン記者が語る。
「章男氏に大政奉還される前のトヨタは、奥田碩・会長が経営の実権を握り、『豊田家はあくまで旗印』と脱・創業家の空気があった。しかし、社長に就任した章男氏が実績を上げたことで創業家は完全に力を取り戻した。そこで始まったのが佐吉、喜一郎という創業2代の神格化です。
実は、喜一郎は技術者としての評価は高くても、会社の経営を悪化させたとして経営者としては評価されていなかった。それが、第2弾が今春放映されたTBS系のテレビドラマ『リーダーズ』は喜一郎がいかに日本の自動車産業を生み育てたかという内容になっていた。今のトヨタは、豊田家の神話を再構築しているように見えます」