お金の価値や生き方について考えさせられる瞬間はふと訪れるものだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
* * *
中国では金持ちの息子・娘たちを称して「富二代」と呼ぶことがある。日本語にすれば、「金持ちのボンボン」といった表現になるのだろうか。しかし、その金満ぶりは、日本人が「ボンボン」と聞いて想像するのとは、おそらく桁が違っている。
そんなことを改めて考えさせるような話題がいま中国で大きな注目を集めている。もっとも「中国で話題」といっても、ニュースの発信地はアメリカである。しかも、「富二代」の女性が引き起こした殺人事件であった。
事件が起きたのは昨年5月。別れ話がこじれたことで女が男を殺したと疑われている。加害者と目されるのは31歳の中国籍の女性、ティファニー・リー。被害者は彼女のボーイフレンドアメリカ人男性のキース・グリーンである。ボーイフレンドとはいうものの、二人の間には二人の息子がいて、二人は夫婦同然の関係だったとみられる。
ただし二人の関係は決して良好ではなく、リーとグリーンには喧嘩が絶えず、事件が起きた日にも二人は激しく争っていたという。
まず事件当日から失踪していたグリーンの携帯電話が見つかり、その後に遺体が捨てられているのが発見され、殺人事件として捜査が開始。間もなくかつてのガールフレンドとしてリーが逮捕されたのである。
事件そのものは、よくある話だ。話題になったのはこの後の話。リー逮捕後の保釈金の額が7000万ドル(約77億円)で、それをポンと払ってしまったことへの驚きとしてであった。
そもそも裁判所が提示した当初の保釈金は3500万ドルだったが、リー側が不動産での納入を申し出たことで、規定(不動産での支払いの場合は倍になる)に従い7000万ドルになったというのだ。
日本円で70億円を超える豪邸の写真も出回り話題となったが、同時に「なぜ不動産で支払ったのか」にも注目が集まった。現在その理由として最も有力だとされているのが、リーが別の身分を得て保釈中にこっそり中国に逃げ帰るのではないかということだ。その際、一族もみなアメリカを離れることになるため、もう豪邸は必要ないと…。
真偽のほどは分からないが、ネットを中心にさまざまな憶測が飛び交っている。『中国青年報』(2017-04-07)など、複数のメディアが報じている。