若者の読者離れが叫ばれるなか、誰もが読書家になるのは刑務所、あるいは拘置所だ。罪を犯した人々は、塀の中でどんな本を読んでいるのか? ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が迫る。刑事施設が貸し出す「官本」というものも存在する。
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官本がきっかけで小説のシリーズ全冊を読破したと語るのは、岩崎友宏受刑者(28)だ。昨年5月に東京・小金井市でシンガーソングライターや女優として活動していた冨田真由さん(21)をナイフで滅多刺しにした犯人である。今年2月、懲役14年6か月の判決が言い渡され、現在は刑が確定。立川拘置所で面会したのは刑の確定直後だった。
「医師の海堂尊さんが書いた小説『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫)シリーズは弁護士に頼んで買ってきてもらったり、自分で買ったりして、全冊すべて読みました。警察署(留置場)の官本を1冊読んだら全部読んでみたくなって。逮捕されてから100冊以上、本を読みました。
このシリーズは医療、警察、司法、行政などについて書かれていて、勉強になりました。通り魔に襲われてPTSD(心的外傷後ストレス障害)になって、最後は自殺しちゃった女の子のことが出てきたんです。PTSDは精神的に重い症状だけども、冨田さんは社会復帰できるのかなと……復帰してほしいですね」
岩崎受刑者は冨田さんのファンだったが、ツイッターなどに執拗な書き込みを繰り返した上で犯行に及び、公判でも「じゃあ殺せよ」と法廷で怒鳴るなど反省の色が見えない態度だった。この期に及んでも“彼女は登場人物のように自殺しなかったから軽い症状なのだ”と思い込もうとし、自身の行為から目をそらし続けているようにも感じた。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号