織田信長が豊臣秀吉を「猿」と呼んだことは有名な逸話だが、実は記録には残っていない。しかし「禿ねずみ」と呼んでいる手紙が残っている。
秀吉の妻・おねが信長の元を訪れた際に、夫の度重なる浮気について愚痴をこぼしたようだ。訪問に対する礼状の中で、信長はおねが以前より美しくなったと褒めた後、秀吉の行ないは言語道断とし、「あの禿ねずみが、そなたのような女房を二度と見つけることはできないだろう」と、おねに思いやりの情を見せている。
一方で、「正室らしく、嫉妬などしてはいけない」と説き、「言うべきことと言わないでおくことの心遣いは必要だ」とたしなめてもいる。締めくくりは「この手紙を藤吉郎に見せること」という気の利いた一行だ。
■取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2017年5月5・12日号