本をまったく読まない大学生がおよそ4割もいるという調査結果をあるなか、「あらゆる人が読書家になる」と言われるのが刑務所、あるいは拘置所だ。彼らはどんな本を読んでいるのか? ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が迫る。
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尻ポケットに入れた財布をすり取る手口から捜査員の間で「ケツパーの土井」と言われた土井康夫被告(70代、本人の希望により仮名)は、昨年、千代田線の車内で現行犯逮捕され、懲役3年6か月の判決を言い渡された(現在、上告中)。東京拘置所から届いた手紙には「外にいる時と同じように、『文藝春秋』を定期購読している」とあった。
「最近買った本は佐高信の『石原慎太郎への弔辞』(ベストブック)、佐高信・浜矩子『どアホノミクスの正体』(講談社+α新書)。イギリスのEU離脱、トランプ大統領誕生、金正恩兄の暗殺などとFact is stranger than fiction。事実は小説より面白いことが一杯起こっています。もっとも芥川賞受賞の『火花』、『コンビニ人間』、『しんせかい』は読んでます。これらは『文藝春秋』に掲載されていましたから」
手紙には英語と日本語が混じる。かつて商社勤めをしていたからだと本人は語る。『文藝春秋』を読んでいる人間と見られたいという、インテリ志向の表われなのだろうか。元刑務官の坂本敏夫氏は言う。
「以前私が関わっていた受刑者に、山本周五郎の本を読んでもらったら『女房に楽をさせてあげたい』と言うようになり、奥さんへの手紙の内容も変わった。良書は気持ちを変えます」
彼らは、良書との出会いを更生に役立てられるのだろうか。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号