ライフ

日本国憲法誕生、そのすぐそばにいた二人の女の物語

日本国憲法と二人の女

 今年は日本国憲法が施行されて70周年に当たる。そこで日本国憲法制定過程のすぐそばにいた、二人の女性の物語をお届けしよう。(文/フリーライター・神田憲行)

 * * *
 最初の女性の名はベアテ・シロタ・ゴードンという。「シロタ」と名がついているが、純粋なアメリカ人女性である。終戦直後、22歳でGHQの民政局でリサーチャーの仕事をしていた。リサーチャーとは、与えられたテーマに沿って日本事情を調査したり、情報を収集する仕事である。彼女がその仕事を任されたのは、少女時代に日本に10年間住んでいたことがあり(父親が有名なピアニストで音大の教授だった)、日本事情に詳しく日本語も堪能だったからである。

 若い彼女の人生が大きく変わるのが、1946年2月4日、GHQが自らの手で日本憲法改正の草案を制作することに乗り出したである。彼女はそのメンバーに選ばれ、女性の権利の分野を担当することになった。妊婦、児童の権利など詳細な素案を作成するが、ひとつを除いてGHQ上層部によって「詳しく書きすぎる」という理由でカットされてしまう。自伝「1945年のクリスマス」(柏書房)でそのときの様子をこう記している。

《激論の中で、私の書いた“女の権利”は、無残に、一つずつカットされていった。一つの条項が削られるたびに、不幸な日本女性がそれだけ増えるように感じた。痛みを伴った悔しさが、私の全身を締めつけ、それがいつしか涙に変わっていった》

《気がついたらケーディス大佐の胸に顔を埋めて泣いていた》

 このケーディス大佐はGHQ案作りの実務の最高責任者で、本職は弁護士である。ベアテは彼のことを自伝の中で「凄い秀才で、物事の把握が早く、決断も早い」「すごいハンサムということもあったが、私たち女性仲間にも人気があった」と、しばしば賛辞を送っている。どうやら彼女にとっても気になる存在だったらしい。

 ベアテがケーディス大佐について記したなかで、気になる一文がある。ケーディス大佐をまた褒め称えたあと、

《その頃、ケーディス大佐は、鳥尾子爵夫人ととかくの噂があったが、そのことで汚点になるような人ではなかった》

 鳥尾子爵夫人とは何者か。それが本稿で紹介する二人目の女性、鳥尾鶴代(後に多江)である。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン