超常現象を起こす音楽「ムジーク」を奏でることによって様々な騒動が起きるアニメ『クラシカロイド』(NHK Eテレ 2016年10月~2017年3月放送)。その第21話で披露されたシューベルトによる歌曲『魔王』のラップアレンジ『シューベルトの魔王道』は、幼稚園・保育園DJをライフワークとしていることでも知られるDJのアボカズヒロ氏がプロデュースした。音楽の教科書にものっている有名な歌曲が、なぜ、溜まった鬱憤を韻を踏みながら周囲に叩きつけるラップミュージックになり、アニメを見た子供が真似するほどの衝撃を与えたのか。アボ氏に制作秘話を訊いた。
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──アニメ『クラシカロイド』でシューベルトがラップをしたことに、大変、驚かされました。歌曲『魔王』をラップにアレンジすることは、最初から決まっていたのですか?
アボカズヒロ(以下、アボ):『魔王』のなかの印象的で有名なフレーズ、こことここは必ず生かしてくださいというオーダーと、ラップをつくるということだけ決まっていました。
──ラップの内容までは決まっていなかったのですね?
アボ:あくまでアニメの挿入歌だから、それっぽく聞こえればいいだろうという考え方もアニメ制作陣にはあったかもしれません。でも、そこで終わると僕じゃない。ならば徹底的にやりきろうと思うのが、僕も妥協しない変人が集った東京藝大出身だからなのかもしれません。
──魔王のラップアレンジをやりきるために、まず始めたのはどんなことでしょうか?
アボ:台本をもらったとき、脚本家が書いたラップが仮の歌詞としてありました。悪いものではなかったのですが、ラップを本業とするプロがつくったものではないので、自分の中にたまりにたまった思いをぶつけるシューベルトの気持ちをあらわすには物足りない、と思いました。そこで、作詞はラップが本業のプロに頼むことにしました。
──ラップを本業とするプロに頼むことによって、どんな違いが生まれるのでしょうか?
アボ:この場合、放送コードがあるEテレにあわせて、器用に対応出来るスタッフと仕事をするという選択肢もありました。でもそれでは、お行儀のよいラップになってしまう可能性が高い。この場合の行儀がよいとは、言葉遣いがきれいという意味ではなく、いわゆる、マーケティングによって求められているものを的確につくる、仕上がりが美しいものという意味です。その結果出来上がるものは、品質は悪くないけれど何も引っかかりがない。もうちょっと、子供が聞くラップだからこそ「事故」を起こしたいと考えました。
──「事故」とは、どんなことですか?
アボ:知らない文化と不意に出会ってしまうことです。たとえば紙の雑誌を買った場合、もったいないから全部のページに目を通すと思います。買った目的は自分が興味を引かれている特集だけでも、それ以外の情報も入ってくる。そこで未知の情報と出会う「事故」が起き、意外に面白そうなものに気づくこともある。情報の引き出し方の大きな部分を「検索」に依存するネットでばかり情報をとっていると、意識して自分の興味の範囲の外へ出ていかない限り、純度が高いノイズレスな状態になります。でも、本来は、豊かなノイズこそが文化を味わい深くするんです。