経済成長は人々の心に隙間を作るものなのかもしれない。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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中国も年々、住みにくい社会が広がっているようだ。そんなことを感じさせるニュースが、山東省で唯一の夕刊紙『済魯晩報』の人気コーナー「壹点」に掲載された。記事のタイトルは、〈息子の連れてきた女友達が美人過ぎることを心配した母親が心配 『まっとうな仕事をしてきた証明書』を要求〉である。
記事ではまず、近年の中国社会において、多くの個人や団体が警察組織に対し、他人の身元を確認するための問い合わせをしてきたり、身分保障に相当するさまざまな名目での証明書の発行を求めてくるといった風潮が広がっていることを指摘。警察組織がその問い合わせの多さに音をあげている実態を報告している。
その上で、最近実際に起きた事件としてタイトルに描かれたケースを紹介している。
騒動は山東省から南部に出稼ぎに行っていた息子が美人の女友達を連れて帰ってきたことから始まったという。
息子の母は、その女友達が「あまりにも美人過ぎること」にまず違和感を覚えたというが、そのほか化粧が派手であったり、寒い冬でも短いスカートをはくなど、自分たちの常識では理解できない行動が度重なると、ついには「この娘はきっと、人に言えないような仕事をしてきたに違いない」と疑うようになったというのだ。
そして母親はある日、意を決して息子に女友達の過去について尋ねたが、息子はのらりくらりとはぐらかすばかりで要領を得ない。母の疑惑は深まるばかり、悩んだあげく息子に彼女と別れるように迫るのだが、この母の態度に息子が逆切れ。反対するなら「南部に戻って勝手に結婚する」と言い出した。
困った母親が駆け込んだのが近場の派出所で、母はそこで「彼女がきちんとした仕事についていたという証明書を出してくれ」と迫ったというのだ。
もちろん警察はそんな証明書は出さない。個人情報の照会もできないとして断ったという話だ。
だがいまの中国では、この話を笑い飛ばせないほど類似の話が多く、なかでも企業から問い合わせが多いという。そして記事は、これは社会がみな自己の責任を回避するために起きている現象だと解説している。