最近ではAV出演ときくと、出演強要問題が大きく報じられていることもあり、不本意な仕事だというイメージが強い。しかし、性風俗の仕事にはもともと、窮地に追い込まれた人たちにとってセーフティネットの役割を果たしてきた側面もあった。ライターの森鷹久氏が、芸能の仕事によって絶望に突き落とされ、AVによって最悪の状況から脱出できたと語るある女性のケースを報告する。
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筆者はこれまでに「半ば騙されてAVに出演させられた」女性や「強制的にAVに出演させられた」女性などの取材をし記事にしてきた。今回取り上げるのは「AVに出たことで救われた」という稀有な境遇にあった女性の例だ。
「望んでいなかった仕事ですが、事務所もスタッフさんも良くしてくれて、今は本当に楽しく充実しています」
東京・中野の喫茶店に現れたのは、現役のAV(アダルトビデオ)女優・マイコだ。昨年AVデビューして、企画物や単体作品など数十本のアダルトビデオに出演実績があり、国外でのショーにも参加したりと、大忙しの日々を送る。そんなマイコだが、元々はどこにでもいる普通の女子大生だった。
「街でスカウトされたのがきっかけで、雑誌モデルをやるようになりました。事務所にも所属して、インディーズで歌手デビューするなんていう話を頂いたこともありました」
そんなマイコに悪い転機が訪れたのは今から3年ほど前のこと。事務所社長に突如呼び出されたマイコは、唐突に肉体関係を迫られたのだった。
「雑誌にもっと出たい、歌手になりたいと思うのなら俺の女になれと、性行為を強要してきたんです。社長には同じ事務所に所属するタレントの彼女がいたので拒否したんですが…」
立場を利用し仕事をチラつかせ、まさにパワハラ的手法で肉体を求めてきた社長に、マイコが抵抗できるはずもなかった。それからというもの、社長はことあるごとにマイコを呼び出し身体を求め続けたのだという。
「ひどい時は週に4~5回、授業中であっても”今から来い”と電話が来る。少しでも逆らうと”干す”と言われ、従うしかありませんでした」
では実際、社長のいいなりになっていれば仕事が増えたかというと、そうでもなかった。むしろ仕事量は減り続け、社長は一万円や二万円といった金額で金をせびってくるようにもなった。さすがに限界を感じたマイコは、社長の彼女であるA子に全てを詳らかにしたのだが…。
「A子は”あの人はかわいそうな人なの”といって取り合ってくれませんでしたが、翌日には社長が飛んできて怒鳴りつけられました。性交中に撮影したビデオを売る、などと脅されたかと思うと、最後には泣き出したんです」
社長は涙ながらに会社の経営状況が芳しくないことをマイコに説明すると、会社に”取締役”として参画してくれないかという驚きの打診をしてきたが、後にさらに驚愕の事実が発覚する。
「結局、会社が抱えていたという一千万ほどの借金を、私に押し付けることが目的でした。社長やA子からも”金を貸してくれ”と泣きつかれ、合計で350万ほど渡してしまいました」
社長とA子による、マイコへの金の無心はそれからも続き、マイコは500万円近い借金を背負った。社長はマイコを怒鳴ったり殴ったりしたかと思うと、急に泣き喚いて土下座をし謝罪する。マイコの精神状態はすっかり正常ではなくなり、社長の知人が経営するという風俗店で働き、借金を返していこうと決めた。だが…。
「風俗店に勤務しだしてすぐ、私の取り分が異様に低いことに気がつきました。店長や経営者を問い詰めると、稼ぎの一部が社長の元に流れていた。社長は私を”沈めた”んです」
実は会社に”一千万円”の負債など元々なく、社長とA子がマイコから金を巻き上げる為の嘘だった。二人は、限度額いっぱいまで借金させたマイコから、さらにカネを搾り取ろうと企て、マイコを風俗店に”紹介”した、というのが事実であった。
「何もかもが終わったと思い、自殺未遂もしました。それでも社長やA子は家まで押しかけて業界にいられなくしてやる、私の裸の画像を実家に送る、風俗勤めを友達にバラす、と金をむしり取って行きました」
身も心もボロボロだったマイコの元に、知り合いのカメラマンから連絡が来た。その人物と知り合ったのは、約一年前の雑誌関係者が主催した飲み会だった。マイコの事情を聞きつけて「AVに出てみないか」と誘われたのだという。