主演の2人のそれまでの清廉なイメージをうまく逆手にとった作品と言えそうだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が今期注目のドラマについて指摘する。
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波瑠が主人公・渡辺美都を演じ、東出昌大がその夫・涼太を演じるドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系火曜夜10時)。ありそうでなさそうな、不思議な夫婦の世界が話題を集めています。
“2番目に好きな人”涼太と結婚したとたん、偶然再会してしまった初恋の相手、光軌(鈴木伸之)。1番好きだったこの彼への思いをひきずる主人公の美都。さあ、どこまで暴走するのか。
現実を見れば、「1番好きな人」と結婚できた人なんて世の中にどれほどいるのでしょうか? 一方、夫の収入や世間体…様々な安定性を求めて「打算婚」した人の割合は相当高いはず。その「打算婚」の安定を揺さぶるこのドラマ。下手に触ると危ないテーマです。
ラブホテルで不倫のみならず、相手に妻がいてしかも妊娠していることを聞いても、反省も後悔もせず。またずるずるとホテルへ向かう美都。「まったく反省なく不倫する主人公たちがクズすぎる」と反発の声も聞かれます。
私としては、正面から倫理を破っていく妻を波瑠がどう演じるのか興味津々で、ドラマを見始めたのですが……一見するとストーリーはたしかに「ゲス不倫ドラマ」。でも、どこか新鮮。
初恋の人に心が揺れ不倫にはまる過程も、暗くなくドロドロもしていなくて、あっけらかんとしている。見たことのないパターンです。常識的な世間体のその向こう側まで突き抜けたような、爽快感すら漂う。浮き世離れした感覚が、面白い。
波瑠にはコミカルな軽みもあって、役者として新しい境地を見せてくれています。
これまで「透明感」「清純さ」「真面目」といったイメージをまとってきた波瑠が、こんな役もやれるんだ、という驚き。この役を引き受けたことでイメージダウンを嘆く声もありますが、いやむしろ私は役者としての可能性を広げたように感じます。
そう、ドラマを見ている人々が「クズすぎる」と感じること自体、上手に演じている証し。物語世界の中へ、視聴者をしっかりと引きずり込んでいる証拠です。