安売り大手「ドン・キホーテ」創業者の安田隆夫氏(68)が「なんたる放漫経営をしていたのかと信じられない」と怒りの矛先を向けるのは、旅行代理店大手「エイチ・アイ・エス」(以下HIS)の創業者(現会長)で、長崎・佐世保のテーマパーク「ハウステンボス」の再建でも名を上げた澤田秀雄氏(66)だ。日本のベンチャー起業家の先駆けともいえる2人の間に何があったのか。ジャーナリストの伊藤博敏氏がリポートする。
* * *
売上高7600億円のドン・キホーテを一代で築きあげた安田氏は、26期連続で増収増益という上り調子の真っ只中の2015年6月末、取締役を退きシンガポールに移住した。現在は「グループ創業会長兼最高顧問」として報告・相談を受けることもあるが、経営に直接タッチすることはない。
そんな悠々自適の海外リタイア生活を満喫していた安田氏の憤怒の理由は、かつてベンチャー仲間たちと組織した投資会社の清算に関してだ。その会社の“管理者”とも言うべき立場にあった澤田氏に怒りをぶちまけたのである。
投資会社の名前は「エイチ・エス・アシスト」(以下HSA)。事業投資のほか、健康食品販売、アジア経営者連合会の運営受託などが主な事業だった。
HSAの前社名はバリュークリエーション(以下VC)といい、ベンチャー企業の支援を目的とし2000年に発足した任意団体「日本ベンチャー協議会」の運営も担っていた。安田氏はその協議会の立ち上げメンバーだった。
協議会は「ヒルズ族」に代表されるベンチャーブームの中で会員企業を増やしていく。最盛時には300社を超え、会長にはフルキャストの平野岳史社長、副会長に楽天の三木谷浩史社長、光通信の重田康光会長、USENの宇野康秀社長など(いずれも肩書きは当時)が名を連ねた。まさに“ベンチャー経営者の梁山泊”だった。