「経営環境が大きく変わっている中で、いま我々はどういうところにいるんだろうと、ずっと考えています。近年の当社はありがたいことに企業サイズが急成長していますが、まだ実力がそこまで追いついていない」
5月9日に行われた決算発表の席上でこう“贅沢な悩み”を打ち明けたのは、4月に社名を「富士重工業」から自動車ブランド名の「SUBARU(スバル)」に統一した同社の吉永泰之社長。
社長の言葉通り、確かにスバルの業績は好調続きだ。この日発表された2017年3月期の決算でも、スバル車の全世界販売台数が初めて100万台を突破(106万4500台)するとともに、連結売上高も5期連続で過去最高を更新する3兆3260億円を叩き出した。
営業利益こそ前年比27.4%減となる4108億円と大きく落ち込んだものの、これはタカタ製欠陥エアバッグによる一連の品質関連費用や、為替変動の影響、米国の金利上昇に伴う販売費の増加などが要因で、スバル車自体の人気に陰りが見えたわけではない。
「業界屈指といわれる二桁の営業利益率(※2017年3月期は12.4%)も保っているし、世界販売の6割を占める米国では恒常的にクルマの在庫不足が起こり、昨年は生産能力を倍増させたほど。トヨタやVW(フォルクスワーゲン)に比べれば規模は10分の1程度だが、身の丈に合った経営スタイルを崩さない優良メーカーといえる」(経済誌記者)
昔からスバル独自の水平対向エンジンとAWD(全輪駆動)による走りの安定感には定評があり、国内外で「スバリスト」と呼ばれる愛好者がいた。
吉永社長も〈スバルは市場の全部を相手にするブランドではない〉と繰り返し公言しているように、敢えて顧客層を広げないニッチ戦略が、かえって一部の熱狂的なファンを生み、スバルの価値を最大限に高めてきたといえる。
ところが、スバリストの幅も徐々に広がり、メジャーになりつつある。ジャーナリストの福田俊之氏がいう。
「スバリストといえば、これまでは走りにこだわったカーマニアで、中価格帯のクルマでも購入できる比較的お金に余裕のある層がスバル車を長年乗り継ぐというイメージが強かったのですが、最近は少し様子が違います。
運転支援システムの『アイサイト』を装備するようになってからは、これまでスバル車に興味のなかったファミリー層も取り込んでいるのです。また、5月に発売される新型SUV(スポーツ多目的車)の『XV』は200万円台前半から購入できる1.6リットルタイプも加え、若年層までターゲットを広げています」
購入層が幅広くなれば販売台数増にも直結するため、メーカーにとっては願ったり叶ったりの状況になるはずだが、「価格を落として付加価値を追い求めなくなったら、スバルブランドの魅力が薄れ、他メーカーとの差別化が難しくなる」(前出・福田氏)とのリスクも生じる。