ドラマの世界において「新たな試み」であることは確かだ。巨匠による昼ドラを作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏はどう見ているか。
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ベテラン俳優陣がキラ星のごとく登場し、新たな「シルバータイムドラマ枠」を作り出した、と話題の『やすらぎの郷』(テレビ朝日系月~金12:30)。倉本聰脚本のこのドラマ、滑り出しの視聴率も予想を超え、世の関心を惹きつけました。何といっても、ターゲットを「ほぼ高齢者」に絞ったことが功を奏したのでしょう。
独特のゆったりとしたテンポ。現代のスピード感に敢えて「合わせない」作り方。プロデューサーも、意図してそう作っていると語っています。
「ゴールデンのドラマを制作する感覚だったら、3話分を1本の尺にまとめてしまうかもしれない。でも、それはやらない。それこそが、このドラマを放送する意味なんだということです」(プロデューサー・中込卓也氏「コンフィデンス」4月17日号)
ドラマが開始してから1か月。「とりあえず観てみようか」のお試し期間も終わり、問われるのはいよいよ中味。新しい可能性を拓いたその一方で、残念な点もなくはない。
●残念な点-その1 カリスマ的ベールが剥がれ落ちる
浅丘ルリ子、加賀まりこ、石坂浩二、八千草薫、有馬稲子、近藤正臣、藤竜也……と70代以上の有名ベテラン俳優がズラリ。ああ、あの人どうしているかと思ったらお元気そう。そんな「顔見せ興業」的面白さ、興味を惹く効果もたしかにある。
でも、カリスマ的大物俳優として、むしろ夢の中にとどまっていた方がよかった、そんな気持ちがよぎることも。TVのアップ画面で、長セリフを語る姿からはオーラが消え、不器用さやぎこちなさ、年齢の方が目立ってしまうことも。
「大女優」にくだくだ下世話なおしゃべりを聞かされると興ざめ。こんなに普通の人だったかなあ、と魔法が解けてしまう気分。ベテラン世代だからこそ、の事情もあるかもしれません。かつては映画全盛時代。人気を博した俳優の中には、「銀幕の演技」でこそ見栄えした人も。TVの演技と映画の演技とでは、そもそも求められる演技の質が違うから、無理が出るのかもしれません。
いずれにせよ、せっかく登場したからにはこの人やっぱり魅力的、今後もドラマで見続けたい、また登場して欲しい、と思わせる結果になって欲しいのですが……。
●残念な点-その2 異議申し立ての意欲はわかるが、世相とのズレ
ドラマの舞台になっている老人ホームは、ベテラン俳優は入れてもテレビ局員は入れないという。「テレビをダメにした張本人だから」と、脚本・倉本氏はセリフの中でバサッと斬っています。そんな風に、今の時代やテレビ界に媚びない辛口の批評性もこのドラマの特徴。
しかし、こと「タバコ」についてはどうなのか。
このドラマを見ていると、タバコのシーンがやたら多いのが気になる。一度や二度ではなく、敢えて入れている、と思えるほど頻繁です。タバコ好きの脚本家ゆえ、主人公に「タバコが体に悪いことぐらい、云われなくたって判ってる」というセリフも吐かせています。しかしその情熱が、どこか空回りしているように感じるのは私だけでしょうか?