単行本『九十歳。何がめでたい』が83万部を突破するベストセラーとなっている作家・佐藤愛子さん(93才)がこの度、春の叙勲で旭日小綬章を受章した。それに当たって開かれた会見には、佐藤さんの“喜びの声”を聞こうと多くの記者が集まったが、想定外の答え(?)に、終始笑いの尽きないものになった。
第一報は、佐藤さんの自宅にかかった文化庁からの1本の電話。昨年8月に『九十歳。何がめでたい』を刊行以来、数多の取材依頼に応える「怒濤狂乱の日々」がようやく落ち着いた春分の頃のことだった。
記者会見はまず、受章の報を受けた時の気持ちを、佐藤さんがユーモアたっぷりに明かして始まった。
* * *
突然、お電話をいただきまして、まぁ、途方に暮れたというのが正直なところです。私どもの年代までの物書きというのは、大変エゴイスティックな仕事の仕方をしておりまして、自分のために書くという、そういう書き方をしてきているものですから、面白いことを書いたとしても、読者のために面白く書こうっていうんじゃなくて、自分が面白いから、それを表現したいという、そういう欲求だけで書いているんです。
だから、すべて自分のためにやったことで、別に世のため人のために力を尽くしたわけでもありませんのにご褒美をいただくというのは、何とはなしに忸怩たるものがございまして(笑い)。
これはちょっとどうなのか、こんなことでよろしいのかしらという、そういう思いがとてもありました。だから、ご辞退したほうがよろしいんじゃないかと一度は思ったりもしましたけど、まあ、結局はお受けすることになりました。
私の兄にサトウハチローという詩人がおりまして、だいぶ前に、やっぱり似たような勲章をいただいております。
私たちはあまりしょっちゅう行き来するというような仲のいい兄妹じゃなかったんですけれど、その時に『おーい、愛子、おれは勲章をもらっちゃったよ』っていきなり電話がかかりまして。ものすごく喜んでいるものですから、私は思わず『まあ、昔、浅草で鳴らした不良少年が勲章をもらうようになったの、えらい時代になったもんだわね』って言ったんです。
兄は何か面白いことを言って返してくるかと思いましたら、まともにムッとしまして(笑い)。兄はそういうことを非常に厳粛に、名誉に受け止めているんだなと。私はどこまでいっても野人なんだなと、その時、思ったんです。
で、その不良少年が勲章をもらうとはえらい時代になったもんだと思いましたが、その不良の妹がまた、言いたいことを言い、書きたいことを書いて、辺りをはばからずに生きてきて勲章をいただくとは、兄が勲章をいただきました時よりも、もっとひどいことなんじゃないかなという、そういう思いでおります(笑い)。それが正直なところです。
※女性セブン2017年5月25日号