超高齢化社会と呼ばれる現在の日本。その次にやってくるのが「多死社会」だ。厚生労働省によると、2015年の死亡者数は約130万人となり、2039年にはその数が167万人に達すると予想されている。ほかの世代に比べて突出して人口が多い団塊世代が人生の終わりの時期を迎えるためだ。戦争など特殊な事情を除き、30年あまりの短期間でこれほど死者数が増えるのは世界的にも珍しい現象といわれている。
多死社会になると、何が起こるのか? 社会福祉や老後の保障、医療などの分野での問題はより一層深刻化していく。なかでも、すでにその問題が顕在化しているのが「火葬場」だ。特に都心部では“葬儀難民”が続出している。東京都福祉保健局の統計によると、都内の年間死亡者数は約11万人。毎日平均300人以上が亡くなっている計算になるが、都内の火葬場はわずか26か所。保冷庫は常に遺体で満杯だという。
そんななか、火葬を待つまでの時間、遺体を安置しておく「遺体ホテル」の需要が高まっているという。
遺体ホテル──聞こえは新しいが、業務形態は葬儀施設のひとつ。まだ全国に数か所しかないが、「今後増えていくことになるだろう」と見ているのは、大阪の遺体ホテル『リレーション』の代表取締役・栗栖喜寛さんだ。
「『リレーション』のオープンは4年前の4月でした。大阪での火葬場待ちは東京のように1週間ということはありませんが、それでも3~4日待ちというケースも見られます。ただ数年前はこうしたことさえなかったので、だんだん火葬場待ちをされているかたが増えてきているといった現状があります」
遺体を迎えに行き、24時間、365日対応する『リレーション』は、安置だけなら1泊3000円。その後、故人・遺族に見合ったお見送りのカタチを模索する。通夜・葬儀をするのか、しないのか。するならば食事の段取りはどうするのか。初七日法要も当日に行うのか…。故人を送るためのそういった細かい内容を1つ、1つ、経済的、精神的なケアを重点に、時間をかけて決めていくという。
「葬儀の価値観も、見送り方もずいぶん変化しています。本来はこういったことをゆっくり考えるための時間が必要なのですが、現代社会ではすごく難しくなっている。でも、ここには、その時間があります」(栗栖さん)
日本の火葬率は99.9%。しかし明治時代初期までは土葬が一般的だった。「死んでまでも焼かれたくない」という観念があり、また遺体を傷つける行為は罪とされる思想が強かったためだ。そもそも開祖である釈迦が火葬されていたこともあって、その後、日本でも火葬によって魂を天へ送るという思想が一般的になった。