今年の米韓合同軍事演習がかつてなく緊迫感を持っている。金正恩暗殺の「斬首作戦」も取り沙汰されている。元公安調査庁第二部長の菅沼光弘氏はこう指摘する。
「“斬首作戦”は、英語では『ビー・ヘッディング・オペレーション』と呼ばれていますが、ステルス戦闘機を使うにせよ、無人攻撃機を使うにせよ、特殊部隊を侵入させるにせよ、作戦遂行は簡単ではありません。
肝心の金正恩の居場所を特定するのが難しいからです。例えば金正恩がいると思われる指揮所は、指令を出す電波が集中している場所だと考えられます。当然、山間部の厚い岩の下にあるだろうから、それを破る攻撃を仕掛けることになりますが、北朝鮮も米軍の作戦を知っているから、破壊は難しい」
かつて、ソ連は電波をわざと集中的に出す“フェイク”の指揮所を作っていたとされる。北朝鮮も同じようなダミー施設を設けている可能性は高い。
「北朝鮮では、ヒュミント(人間を介した諜報活動)も活動できる余地があまりない。アメリカはフセインやカダフィ、ビン・ラディンなどの居場所を見つけてきましたが、それは中東にスパイを入り込ませることができたからです。
北朝鮮は入国することすら難しく、国民の守秘も厳しいため、ヒュミントが活動して金正恩の居場所を見つけることはなかなかできないのではないでしょうか」(同前)
韓国の聯合ニュースは、4月の軍事パレードを分析し、北朝鮮でこのたび新たに「特殊作戦軍が創設された」と報じた。米韓の“斬首作戦”への対抗だとされ、〈朝鮮中央テレビは特殊作戦軍が広場を通る際「最高司令官(金正恩氏)の命令さえあれば、白頭山の稲妻のごとく敵の心臓部に真っ先に匕首を突き刺すという強い意志がみなぎっている」と伝え〉たという。
米韓と金正恩のチキンレースは、極限に達しようとしている。
※SAPIO2017年6月号