篠山紀信氏とともに日本の写真界を牽引しつづけてきた沢渡朔氏(77)。女性を美しく撮ることに心血を注いできた撮影哲学とは。半世紀を超える写真家人生を振り返る。
「撮影は非現実であり、非日常。ハレの日なんですよ」
日本写真界の革命児である沢渡朔は、日本大学芸術学部写真学科卒業後、1963年に広告制作会社「日本デザインセンター」に入社するも、26歳の時に退職しフリーカメラマンに転身した。
「トヨタや東芝など大企業相手の堅い仕事が多かったんですよ。でも、僕は女性を撮りたかった。1960年代はグラビアというジャンルがなかったですから、ファッションの世界でストーリー性のある写真を撮れればと思っていました」
31歳になった1971年、広告の仕事でイタリア人モデルのナディア・ガッリィに出会う。彼女を被写体として、東京や軽井沢、ヴェネチアなどで撮影し続け、カメラ誌『カメラ毎日』に発表。
芸術的な作品の評価は日増しに高まっていった。
「ナディアとの撮影が、僕の原点ですね。今の現場ではヘアメイクが髪型を整えて、スタイリストが洋服を揃えて、綺麗にするでしょ。でも、一人女の子がいて、一人カメラマンがいれば写真は撮れる。これが基本だと思うんですよ」