昨年、大ヒットした映画『シン・ゴジラ』でゴジラのモーションキャプチャーを担当し、話題を呼んだ野村萬斎(51才)。彼が映画『花戦さ』(6月3日公開)で演じたのが、戦国時代に実在した“いけばな“の名手・池坊専好だ。狂言師はもとより、俳優として注目を集め続ける彼に、話を聞いた。
物語の主要素材である、花への思いは、「母方の祖母が、池坊の花をやっていた」(野村萬斎、以下「」内同)こともあり、はさみの持ち方、切り方、枝のたわめ方などに苦労することはなかった。
花といえば、室町時代に能狂言を完成させたといわれる世阿弥の著書『風姿花伝』は、観客に感動を与える芸の力を「花」として表現している。能という芸能の奥義である「まことの花」は、心に秘めての努力、精進、工夫し続けることから生まれるもので、一時の美しさや華やぎではないと説いている。この花をさらに人の生き方に重ねて、萬斎は言う。
「花もさまざまで、美しい花もあれば、毒やとげを持っている花もある。そんな花でも、花は花であって、無心に咲いている花に優劣はないと思うんです。今を盛りと華麗に咲き誇る満開の桜も、苔むした地に隠れるように咲く一輪の野の花も、朝もやの中に咲く幽玄の花も、盛りを過ぎて古木に咲く花もそれぞれに美しいと、私は思っています」
『風姿花伝』の中で語っている花は、舞台で咲かせる花のことだけではなく、「人生のステージでそれぞれに咲く花のことでもあるのでは」と、世阿弥を読み解きながら、続ける。
「人間という花にも、美しいものもあれば、毒を持つものもある。でも、それぞれが人間として精一杯生きていたら、それはそれで良いのではないかと思っています」
選ぶ言葉、舞台で鍛えた美声、映画の中の“専好さん”そのままの笑顔に、説得力がある。
「生きるということは、自分という花をどう咲かせ続けるかにほかならないと思うのです。花に水を与え、肥料を与え、日光に当て、ときには風雨にさらす。そして、花は育ち、咲き、やがて枯れていく。人生も同じですよ、きっと。だから、この先も自分の年齢を否定することなく、その時期や年相応に“時分”の花を咲かせていきたいと思っています」
取材当日の衣装はトーンを抑えているとはいえ、大胆な花柄。撮影中、「素敵ですね」と声をかけると、「これ? 衣装さんが」となごみの微笑み。周りを緊張させない人だった。
撮影/矢口和也
※女性セブン2017年6月8日号