優勝候補の筆頭と見られていた巨人が勝率5割ラインをさまようなど苦戦が続いている。オフに補強した3人のFA選手は期待通りの働きを見せていないどころか、山口俊、陽岱鋼はケガで1軍に昇格できず。打線の軸は坂本勇人と阿部慎之助で、周りを外国人や長野久義などが固めている状況は、原辰徳監督時代と代わり映えしない。
その中で、目を引くのが開幕からセカンドに起用している中井大介だ。開幕戦でいきなり2安打を放つも、その後は不振に陥り、打率は2割台前半に。セカンドには片岡治大やルイス・クルーズなどが控えるにもかかわらず、高橋監督は我慢強く使い続けた。野球担当記者が話す。
「監督というものは、自分の色を出したがる生き物。前任者との違いをどうしても見せたくなる。高橋監督はFAやトレード、外国人など球団から与えられた戦力だけではなく、自ら新戦力を見出した上で勝ちたいという気持ちもどこかにあるのでしょう。原監督時代から期待されながらも結果を残せなかった中井がブレイクすれば、由伸色を出せますからね」
たしかに、FA制度導入以降、巨人の大型補強はオフの風物詩となってきたが、振り返ると、長嶋茂雄監督は松井秀喜を、原辰徳監督は坂本勇人を、堀内恒夫監督は内海哲也という球界を代表する選手を育てた。自分自身が見出し、育て上げた、監督にとっての“恋人”と言っていいだろう。内海は堀内監督時代には成績を残せなかったものの、退任後の2006年に初の2ケタ勝利を挙げ、2度の最多勝にも輝いている。自身も「我慢して使ってくれた堀内さんのおかげです」と話していた。
「松井はルーキーイヤー、オープン戦で結果を残せず、開幕は2軍で迎えた。5月に昇格後、長嶋監督はスタメンで起用したが、打てなくなるとまたファームで鍛えさせた。坂本の場合は開幕スタメンを勝ち取り、二岡智宏の故障もあってショートに。猛打賞を2度記録するなど3月、4月を2割8分4厘と安定した成績で乗り切った。
中井のように開幕から打てないのに、起用され続けたわけではありません。そもそも、2人は10代でしたが、中井は27歳と中堅クラスという違いもある」(同前)
中井は5月17日のヤクルト戦で今季初めてスタメンから外れた。代わりにセカンドに入ったのは、ドラフト1位ルーキーの吉川尚輝だった。その後は5年目、22歳の辻東倫も抜擢されている。
「大枚を叩いて獲得したFA選手や外国人は、獲得初年度は打てなくても使い続けられるケースも多いが、期待通りの活躍ができなければ、その後は入団時の歓迎ぶりがウソのように冷遇される。片岡やクルーズが良い例。逆に言えば、FA選手や外国人の多いポジションは、若手にとってチャンスがある。生え抜きのレギュラーを引きずり降ろすことと比べれば、ハードルは幾分か下がる。
高橋監督の起用法を見れば、セカンドのポジションを若手に獲らせたいと思っていることは明白。中井は最後のチャンスでしょうし、吉川も新人だからといって、これからどれだけチャンスを与えられるかわからない。今が数少ないアピールの場です」(同前)
長嶋監督にとっての松井、原監督にとっての坂本……、はたして高橋監督にとっての“恋人”は誰になるか。