東京メトロ銀座線浅草駅。その4番出口の階段を上りきると、爽やかな隅田の川風が「今日も来たんだね」と心をくすぐり、やさしく頬を撫でてくれる。振り向けば雷門の賑わい、正面にはどーんと迫りくるスカイツリーを従えた吾妻橋というロケーション。
その橋の西詰、川の流れと平行に走る細い路地の入口にあるのが『四方(よも)酒店』だ。
夕方5時を過ぎると、「浅草の観光名所は内外からやってくる観光客の皆さんにおまかせ。我々は、この角打ちの名所で本日も楽しませてもらいます」という、主に地元浅草に職場のあるサラリーマンたちの憩いの場になる。
昭和30年に創業したこの酒屋のご主人は、「小学生の時には、もうすでに自分が親の後を継いでこの店をやっていくんだと決めていました」という、酒屋道一直線に歩む2代目の金子眞一さん(60歳)。
その彼は「P箱(酒のケース)を重ねてテーブルがわりにしたものが中央にひとつ置いてあるだけ。飾りも何にもないし、10人も来てくれたらもう満員ですよ。恥ずかしいぐらい狭いです」と笑う。
だが、「角打ちは性別、年齢、仕事などに関係なく誰でも気軽に話ができるツールですからね。そのためにはこの広さが最適の狭さなんですよ。別にこの店の中で神輿を担ぐわけじゃないし、野球をするわけでもないものね。えっ、例えが酔っぱらってる?まだ飲んでないよ(笑い)」(60代、玩具メーカー)、「落ち込んだときは癒してくれるし、うれしいときはそれを増幅してくれる。この空間がまるでライブ会場にいるようで、楽しいんですよ。僕はすでに酔っていると思います。だって、ここへ来ただけで酔った気になっちゃうんですから(笑い)」(40代、製造業)と、この店を誰もが愛してやまない。