運命というものはあるのだろうか──。誰もが一度は考えたことがあることだろう。脚本家の橋田壽賀子さん(92才)が“運命“について語る。
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運命はコントロールできない、自分の思うとおりにならないのが人生、私はそう思います。本当は東大に行って言語学者になりたかったけど、受験に失敗して早稲田の国文科に入った。そこで女生徒があまりいないからと劇団に誘われて、やってみたら面白くて演劇専修に転科しました。
その後、たまたま松竹を受ける友達がいたので一緒に受けてみたら合格して松竹最初の女性社員になった。それだってカンニングして合格したんです(笑い)。当時は「映画の世界に入る女はろくでもない」「ラブシーンの女のせりふだって男の脚本家の方がうまい」なんて言われる時代でしたが、10年下積みを積んで退職して、たまたまテレビが出てきたので、テレビドラマの脚本家になりました。テレビの世界に行ったから主人と結婚できたし、石井ふく子さんとも出会えました。他の人と巡り会っていたら、ミステリーばかり書いていたかもしれません。
今振り返れば、私が自分の意思で行ったことはほとんどなく、降って湧いてきたチャンスがいっぱいあった。そのチャンスのバスに乗れたことも運だったと思います。
だから、運命の神様って絶対にいるんですよ。いろんなタイミングは全部運です。私にとって大きかったのは、戦争中のコッペパン1つしかない貧しい時代を経験していたこと。ひどい時を知っているから、ご飯を食べられるだけでありがたく、何が起ころうが自分が不幸だとはまったく思いませんでした。
今の子は世の中が豊かだから、逆に不幸がいっぱいある。十ある幸せを幸せとも思わない子がいるけど、私なんて一あれば充分という時代ですよ。その意味では、戦争の時代を生きたことも幸運でした。本当にありがたい運命ばかりです。
※女性セブン2017年6月15日号