中年世代以上なら、その匂いを嗅げばすぐにああ、と名前が浮かぶはず。木クレオソートの放つ独特な刺激的香り。ラッパのマークで知られる大幸薬品の胃腸薬「正露丸」だ。日本に入ってきて百年を超える歴史があり、市場で約5割のシェアを持つ。認知度は9割を超える、まさしく正統的ガリバー。
盤石に見えるその定番ブランドから、満を持して新製品が発表されたことをご存じだろうか? 4月3日、「正露丸」シリーズの新製品として発表された「正露丸クイックC」。振り返れば「正露丸」が発売されたのは115年も前。糖衣で飲みやすくした「セイロガン糖衣」が登場したのは何と51年前のこと。それ以来の新製品というのだから驚く。
では今、わざわざ新しい製品を出す狙いとは何なのだろうか? 従来の「正露丸」との違いはどこにあるのか? そのターゲットとは、いったい誰なのだろうか? 常に身近にありよく知っている常備薬だと思い込んできた「正露丸」。しかし、そのルーツについて聞くと、目からウロコが落ちた。何も知らなかったことを知った。そもそもの名前は「忠勇征露丸」。「正」ではなく「征」。“露を征する”つまり日露戦争と深い関係があるというのだ。
「外地での戦争では衛生管理が重要な課題となっていました。戦闘よりも病気で死亡する人の数が多かったからです。そのため軍人全員に忠勇征露丸の服用を命じた、という記録(明治三十七八年戦役陸軍衛生史)も残っているんです」と大幸薬品広報部がまずはトリビア的な歴史について教えてくれた。
戦後、その薬の製造販売権を継承した柴田音治郎が1946年大幸薬品を創業し、「製品名も『征』から『正』へと変わりました」。