脳には、悪口、陰口、噂話をしたり、されたりする“仕様”がある。その程度は、親の育て方、友人とのかかわり方など生まれ育った環境が大きく影響する。東京大学薬学部教授で、近著に『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』(朝日新聞出版)がある、池谷裕二さんはこう指摘する。
「だから自分の癖を知っておくべきです。自分はついつい悪口を言ってしまうタイプなのか、悪口を言って喜ばれるともっと言ってしまうのか。案外、多くの人は『あなたは悪口を言いますか?』と聞くと、『言いません』と答えます。でもそういう人に限って言ってるものです。悪口が嫌なら、そういった友達や集団と距離を置くのがいい」(池谷さん・以下「」内・同)
2014年に『ケルン大学』(ドイツ)のホフマン博士らが、18~68才の男女1252人を対象に実施した調査では、信心深い人と無神論者の人の「善行の回数」に差はなかったものの、信心深い人の方が「悪い噂を聞いた回数」が、無神論者よりも少なかった。つまり宗教は、その人を善行に駆り立てるので、『陰口をたたかない』『他人の足を引っ張らない』という消極的良心を生む効果があるのだ。
「私は無神論者ですし、宗教に入れとはいいません。ただ、悪口との距離感は重要です。例えば私は、自分の書評は見ないようにしていますが、もっと向上したいと思ったときにはちゃんと人の話を聞くようにしています。『池谷、最近まったく業績が出てないじゃないか』って言う場合、それは本音トークですよね。
直接言われない場合は陰口になりますが、全部きれいごとばかりだと、猜疑心が増えていきます。それを中和するために悪口が存在しているっていう言い方もできますね」
悪口、陰口、噂話に振り回されない生き方を聞こうと思ったものの思わぬ結論に…。
「悪口に振り回されるのも一興なのかもしれません。悪口を言われるとストレスがたまるかもしれませんが、それに対処する方法も学んでいき、人間的にも成長します。もちろん絶賛されるのがいちばんですが、その次にいいのは罵倒されること。いちばん嫌なのは無視されること。存在を認めてもらってないということですから。一度も悪口を言われたことがない人って、たぶん全然魅力的じゃないってことじゃないですかね」
※女性セブン2017年6月15日号