毎日の晩酌にビールが欠かせないという人にとっては、納得がいかない話だろう。6月1日から施行された「酒税法等一部改正法」に則り、食品スーパーなどを中心に発泡酒や新ジャンルを含めたビール類の価格が1割~2割ほど値上がりしたからだ。
「いつもビールを購入していた酒のディスカウントストアは、特売日ともなるとアサヒの『スーパードライ』やキリンの『一番搾り』350mlの6缶パックが1000円以下(※税別)で売っていたのに、6月初めの週末にのぞいてみたら、1100円を超えていました。
ビールはほぼ毎日飲んでいますが、家計もそれほど楽ではないので1円でも安い店を探し回って購入してきたのに……。今後は泣く泣く発泡酒かチューハイに変えようかと思っています」(都内在住の40代男性)
今回の法改正は、まさにこうした安売り販売の商慣習にメスが入った形だ。
これまでスーパーやディスカウントストアがビールを格安で販売できたのは、ビールメーカーから卸売業者、そして各小売店へと支払われていた販売奨励金(リベート)を値下げの原資に充ててきたから。
ところが、大手のスーパーやディスカウンターが販売数量の多さを武器にリベートを得て、さらに赤字覚悟の値下げを続けていたら、町の小さな酒屋の経営は立ち行かなくなる。この不公平感を是正するために、国税庁が取り締まりを強化することになったのだ。
今後、商品の仕入れ値に人件費などを加えた原価を下回る価格で売った業者は、場合によって酒類の販売免許を取り消されるという。
この事態にビールメーカーはどう対応するのか──。
「今年に入って、法改正を前に大手メーカーは相次いでリベートを実質減額している。若者を中心に“ビール離れ”が止まらず、ただでさえ国内市場は12年連続縮小する中、メーカーとしてもこれ以上リベートを積み増して価格消耗戦を続けていても利益は増えない。むしろ安売り販売規制は望ましい姿だと考えている」(全国紙記者)
だが、値崩れを抑えて“適正価格”が守られたとしても、値上げによってますますビールの総需要が減ってしまえば元も子もない。
6月5日に主力ビールブランド『一番搾り』のうまみ成分などをアップさせるリニューアルを発表したキリンビールの布施孝之社長も、そんな痛し痒しの状況に困惑する。