計60ページの冊子を開くと、患者の家族の悲痛な叫びが溢れている。
《Fさんは、精神的不調をきたした時に睡眠薬などの服用はないが、お地蔵さんに自分の命を捧げるので、子どもの病気を治して欲しい、また年末には井戸水で水行などしている》
《本人が冷蔵庫の中に「毒」を入れてあるといい、警察に届けにいった。(中略)Kさんは、親戚にこれ以上迷惑をかけたくないとの思いでいっぱいである》
《本人は、夜中に誰かが来て「私を殺そうとしている」といっては家を飛び出し、自分で運転して、スピードを出しすぎ車をよく傷つけていた》
和歌山県精神保健福祉家族会連合会、通称「和福連」がまとめた、精神疾患患者の家族の生活実態レポートである。
「患者本人もさることながら、家族の苦労を知ってほしかった」と、冊子を編纂した同会代表の大畠信雄さん(74才)が言う。
6月1日、全国の精神疾患患者の家族会でつくる「みんなねっと」(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会)の定期総会が都内で開かれ、大畠さんも和歌山から参加した。総会の議題は、現在国会に提出されている「精神保健福祉法改正案」について。同法案は、昨年7月に神奈川県相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件を受けて提出されたもの。
犯人が事件前に措置入院(行政による強制入院)していた過去を問題視し、「退院後のケアが充分ではなかったのではないか」という点が議題にあがったのだ。改正案は全ての措置入院患者の“支援強化”を柱としているが、同時に数多の問題点が指摘されている。
一例が「警察の関与」の強化である。法案が通ると、措置入院患者の退院後の支援計画に警察が参加できるようになる。患者が退院後に転居した場合、病院と警察が連携し、本人の同意なくして転居先の自治体に個人情報を通達することも可能になる。
「支援というより監視です。患者本人の人権を侵害することにも繋がりかねず、本人が地域で孤立する可能性がより高まる。大変な法案が今国会で審議されている。精神障害者を取り巻く実態をまったく理解していません」
大畠さんはそう話す。彼自身、精神疾患を持つ長男を持ち、かつて心中を考えたほどの苦悩を乗り越えた人間だった。